昨今リノベーションという言葉がかなり定着してきましたよね。私が大学生や社会人に入ったくらいからこの言葉を聞き始めたわけなのですが、今では自分もあたりまえのように使い、仕事にもしています。
そんなリノベーションをはるか昔に建築作品として残した建築家がいるのはご存じでしょうか。イタリアの建築家カルロ・スカルパです。今回は彼の作品を熱く語っていければと思います。
ポッサーニョ石膏陳列館
まずはこちらの作品からご紹介しましょう!この建築は、北イタリアのポッサーニョにある、彫刻家アントニオ・カノーヴァの石膏像陳列館の増築です。ポッサーニョに残るカノーヴァの生家が、石膏陳列館になっています。
1836年に完成した既存の展示室は、壮観で威厳のある古典様式の空間です。縦に長く、高い天井、そしてセンター通路の両側には巨大な彫像が展示され、トップライトの均質な光が注いでいます。
一方、スカルパによる増築部分は、モダンで明るい空間が広がります。天井が低く小さな空間の中で、石膏像たちが光に包まれています。その光を導き入れるための様々な開口部がこの空間では検討され、強弱ある多彩な光が内部に採り入れられています。それらが白い壁に囲まれた展示室に白い石膏像を浮かび上がらせ、豊かな表情つくりあげています。
これらの空間をつくりあげているのは多彩な窓をはじめ、ひし形に切った階段の断面や石膏像専用の台座、十字架を模した展示台、宙に浮いたような片持ちの展示台、1本の細い柱で支えられた展示台など、細部の形態や素材にまでこだわったデザインによるものです。これらが彫刻作品という主役を引き立てるための空間のしかけになっています。幾何学的で無駄な装飾のないすっきりとした明るいモダンな空間のなかに、そんなちょっとしたところに繊細な遊び心、そしてコンクリート、鉄、ガラスに大理石や木材など、異なる材料を取り入れて組み合わせた絶妙なアクセントによって、すばらしい空間体験をつくりだしています
カステル・ヴェッキオ美術館
次にご紹介する建築作品があるのは「ロミオとジュリエット」で有名なイタリアのヴェローナ。この都市は中世の面影を残す北イタリアの古都です。旧市街地は川と城壁に囲まれた城塞都市であり、その要塞だった所にこの建物があります。
建物は1376年に築城されたゴシック様式の古城を市立美術館に改修されたもので、1964年スカルパの改修によって、繊細で密度の高いデザインの建築に変貌した傑作です。その後も、美術館は彼による改修が加えられています。
彫像ギャラリーは、正方形平面となった展示室の5室が、東西直線状に細長く連なっています。
8メートル四方の5つの展示室は、半円状となったアーチの開口がある分厚い壁で空間を分節しながら連結しています。5つの展示室は形状はほぼ同じくらいですが、それぞれに窓の形状と位置、そして展示が異なるので、光の量と質が微妙に室内の印象を分け、空間の個性をつくっています。
彫像ギャラリーに展示されている彫刻作品は、それぞれがバラバラな向きに置かれています。普通、出入口軸を中心に正対するように展示されるはずですが、その点在された彫刻はあちこち向いています。それが動線を空間軸に絡まるような構成となり、美術館の動線計画に組み込まれているのです。寄り道するように彫像を鑑賞しながら、その空間の光の変化を彫像とともに感じる空間がすばらしいです。1つ1つどの展示作品を見ても、あたかも最初から、城であったときから、そこにそうしてあったかのような錯覚に陥ります。でもそれは古い物・古い文化を残しつつ、新しい空間に仕立て上げられているわけです。
ブリオン家墓地
この作品は、改修・増築といった予算や機能などで制約の多い仕事がほとんどであったスカルパにとって、それらを気にすることなく彼が思うがままに設計した初めての作品です。スカルパは多くのプロジェクトを手掛けましたが、実現した新築の建築はこの墓地も含めてわずか3作品。その中でこの作品はスカルパの代表作と言われています。
このお墓は、電機メーカーのブリオンヴェガ社の創始者であるジュセッペ・ブリオン氏夫妻のために建てられたものです。そしてここにはその設計を手がけたカルロ・スカルパとその奥さんのお墓があることでも知られています。
墓地の構成はエントランス塔、ブリオン夫妻の墓、その家族の墓、池に浮かぶ瞑想室、そして礼拝堂からなっていて、そこには芝生や池、小川のような水路、オブジェなども配置されています。
この空間全体の中にはベネチアというまちを小さく圧縮されたようなものを感じます。それはスカルパが育ったベネチアの原風景がそこに無意識に表現されているのかもしれません。
墓地をめぐらせる壁、内部空間を構成している各ディテールにはスカルパによる様々な意図がこめられています。それはここを訪れる人々をどのように導かせるかという想いによる空間的仕掛けであるのです。それらが随所に施されているのを見ると、そこには墓地に訪れるご家族を思うやさしさのようなものを感じます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。最初の2つの作品は、いずれもスカルパは既存の建築を残しながら斬新なデザインを加えて、まったく新しい空間を造形しました。外観、アプローチなど歴史遺産としての姿を壊さずモダンなデザインを組み合わせて機能性と遊びを持たせています。既存部と新たに付加した部分のバランスに違和感がないのは、建築家の古い建築に対する敬意と歴史を継承する意思がその表現にあらわれているからです。
参考資料)a+u カルロ・スカルパ、建築の詩人スカルパ
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