近年、リノベーションという言葉が広く定着していますが、そのはるか昔から、既存の建築に新たな命を吹き込むことで傑作を生み出した建築家がいます。イタリアの巨匠、カルロ・スカルパです。
今回は、彼が手掛けた建築の中から、特にその才能が光る3つの作品をご紹介します。彼の作品に触れることで、古いものに敬意を払いながら、新しい価値を創造する建築の奥深さを感じられるでしょう。
カルロ・スカルパ建築の3つの魅力
彼の作品を読み解く上で、特に重要な3つの要素をご紹介します。
- 「増築」と「改修」の天才: 既存の歴史的建築の雰囲気を壊さず、そこに自身の斬新なデザインを組み合わせることで、新旧が美しく調和した空間を創り出します。
- ディテールに宿る遊び心: 窓の形状や手すり、展示台など、細部にまで徹底的にこだわります。素材の組み合わせや幾何学的なデザインが、作品を際立たせる巧みな仕掛けとなっています。
- 光と影の繊細な演出: 光を単なる採光としてではなく、空間に表情を与える重要な要素として扱います。様々な開口部から取り入れられる光が、空間に陰影と奥行きをもたらします。
カルロ・スカルパ 代表作品3選
ポッサーニョ石膏陳列館|光が彫刻を際立たせる

この建築は、19世紀の古典様式の石膏陳列館に、スカルパが増築を施した作品です。
既存の壮大な空間に対し、スカルパによる増築部分は、モダンで明るい空間が広がります。多彩な窓や天窓から差し込む光が、白い壁に囲まれた空間を豊かに彩り、石膏像を幻想的に浮かび上がらせます。幾何学的な階段や、宙に浮いたような展示台など、細部のデザインが主役である彫刻作品を引き立てる完璧な舞台となっています。
カステル・ヴェッキオ美術館|歴史を語り継ぐ空間

「ロミオとジュリエット」で知られる古都ヴェローナにある、14世紀の古城を改修した美術館です。
この傑作は、既存の分厚い壁やアーチを活かしつつ、繊細で密度の高いデザインを加えて生まれ変わりました。展示室ごとに異なる窓の形状や位置が、空間の印象を変え、光の質に個性を与えています。作品の向きをあえてバラバラに配置することで、来館者が寄り道するように彫像を鑑賞し、光の変化を楽しむような動線が巧みに組み込まれています。
ブリオン家墓地|人生と愛を表現したランドスケープ

改修・増築の仕事が多かったスカルパが、新築として設計した数少ない代表作です。
この墓地は、エントランスや瞑想室、礼拝堂、水路や池といった様々な要素が複雑に絡み合い、ベネチアの街を凝縮したような空間を創り出しています。緻密に計算されたディテールには、訪れる人々を優しく導くための「おもてなし」の気持ちが込められています。この空間全体から、亡くなった家族への深い愛情と、スカルパ自身の建築に対する誠実さが感じられます。
まとめ:古いものに敬意を払い、新しい価値を創る
スカルパの作品は、既存の歴史的な建築に対して、決して対立するのではなく、敬意を払って共存するという姿勢が貫かれています。
彼は、古い部分と新しく加えた部分の境界を曖昧にし、細部へのこだわりによって、機能性と美しさを両立させました。
カルロ・スカルパは、「過去」をただ保存するのではなく、新たな命を吹き込むことで、建築に時代を超える力があることを示してくれた、まさに天才的な建築家なのです。
参考資料)a+u カルロ・スカルパ、建築の詩人スカルパ