建築学生へアドバイス

卒業設計or論文?建築学生のための大学研究室の選び方と準備

 大学4年生をむかえると研究室(大学によってはゼミ、またはスタジオなんて呼ぶところもあります)に所属し、各々卒業研究(建築学科であれば卒業論文または卒業設計)を行う準備に入ると思います。

 就職活動もあり、忙しいとは思いますが、きちんと4年間の集大成として卒業研究に取り組めるように、しっかり検討して自分の行く研究室を選択しましょう。

 そこで今回は、大学の建築学科の卒業生である私が、自身の経験もふまえながら、研究室の所属に関する話題を掘り下げてご紹介したいと思います。

パウレタ(一級建築士)
大学4年生以外の建築学生さんも早めに読んでおいて損はない内容となっています。是非ひとつの参考としてとらえていただき、積極的に動いていただければ幸いです!

研究室決定の流れ

 大学の建築学科における所属先の決定までの流れとしては、大体以下のような流れになってくるかと思います。

研究室の所属先候補の決定(書類提出)

研究室の教官との面接

所属研究室の決定

研究室の活動及び卒業研究へ!

時期的には大学によってまちまちではありますが、多いケースとしては、

⇒大学4年生の新学期になって書類の提出

②⇒GW前までに面接

GW明けに決定

決定後活動に入る

という感じになるかと思います。

「早いところでは大学3年生のうちに所属が決まるところもあったりしますよね」

ここはよく大学側の連絡事項をきちんと聞いて行動しましょう!

研究室の系統別特徴と就職先

 いろんな先生の講義を聞いたり人とあったりしながら建築を学んできて、設計以外にもいろんな分野があることに気づいたことかと思います。研究室に所属を決めることは、自分にどんな分野が合うかを今一度考えるいい機会になることでしょう。

 ではここでは改めて、建築にはどんな分野の研究室があるかをざっととりあげ、おさらいしながらその特徴を確認してみましょう!

パウレタ(一級建築士)
まだ大学4年生でない建築学生の方やこれから大学の建築学科などに進学する予定の学生さんも、ご自身の方向性を見据える情報となるかと思います。どうぞ参考にしてみてください

意匠系研究室

特徴

 建築のデザインに関する研究や実践を行うための研究室になります。この研究室の指導教官は、建築家として自身の設計事務所を主宰しているなど、建築設計に自ら携わっている人も多いです。研究室の活動に関しては、学生同士で何かをつくったり、建築を見学するなどの機会もあったりします。たとえばコンペ案や先生自身の仕事に関する提案の作成を行って実践的に指導する研究室もあるかと思います。

就職先

 意匠系研究室出身の人は、設計事務所や組織設計事務所、ゼネコンの設計部やハウスメーカーの設計部など、設計に関するところに就職を希望し、そうなっている人が多い傾向にありますね。自分で設計事務所を立ち上げて活躍する人もこの系統の研究室出身の人が多いです。

計画系研究室

特徴

 この研究室は意匠系研究室と方向性が近いですが、より建築を計画的な視点で研究しています。先生もどちらかというと研究者として計画に関する調査や論文を書いたりする人が多いです。たとえば集合住宅や学校計画、または高齢者施設という建物の用途に関する計画を専門としている先生もいらっしゃいます。

就職先

 計画系研究室出身の人も意匠系と同様に、設計に関するところに就職を希望し、そうなっている人が多い傾向にあります。少し異なる点としては、研究室の研究用途の建物に関する就職先が多い印象は受けます。たとえば住宅系の研究室であれば集合住宅専門の設計事務所であったり住宅メーカーの設計部であったり、病院系の研究室であればその設計が強い設計事務所であったりなどです。

パウレタ(一級建築士)
卒業設計で単位を取得して卒業したい方は、やはり上記の意匠系か計画系の研究室をおすすめします!

構造系研究室

特徴

 建築の構造に関する研究を行っている研究室です。構造といっても、先生によって研究分野がいろんな系統に分かれます。たとえば耐震であったり、構造解析、木造の研究など様々です。工学系大学の建築学科ですと2~3つくらいの研究室はあるはずです。自分が研究したいものに近い先生に指導を受けたほうが、より良い卒業研究となるかと思います。

就職先

 構造系研究室出身の人は、構造設計事務所や組織設計事務所、ゼネコンの構造部など、構造設計に携われるところに就職を希望し、そうなっている人が多い傾向にありますね。

環境・設備系研究室

特徴

 こちらの研究室は環境や設備に関するテーマを扱っています。環境といってもいろんな分野に分かれ、具体的には光・音・熱・空気・水などを制御して快適で安全な空間をつくるための研究となります。ここの分野はエネルギーに関する問題にも関連してきますので、建築という枠をはみ出し、工学系の学科や企業などと連携しながら研究をすることもあったりしますね。

就職先

 環境・設備系研究室出身の人は、設備設計事務所や組織設計事務所、ゼネコンの設備設計部など、設備設計などに関する仕事に携わるところに就職を希望し、そうなっている人が多い傾向にありますね。あとは環境評価を行う機関や検査機関に進むという人もいたりしましたね。

材料系研究室

特徴

 木材、鋼材、コンクリートなどの建築材料における建築技術について研究をすることになります。データをとるための材料実験なども行うことになるでしょう。そしてその性質を把握し、建物を作るための方法を考えます

就職先

 材料系研究室出身の人たちは、施工に関する仕事に就職して、現場監督などを行っている人が多い傾向にありますかね。その他にも建材メーカーであったり、建築に関連する商品や材料の開発や営業の仕事に就く人もけっこう見られますね。

都市計画・まちづくり系研究室

特徴

 こちらの研究室は、対象が建築という単体でなく、都市、まちという集合単位となります。都市計画やまちづくりは、それに関する仕組みづくりについての研究や提案などを行ったりします。たとえば街並み、防災都市づくり、中心市街地の衰退化などその問題は多岐にわたり、法規やお金とも関係し、かたちとしての成果が見えないことが多いですが、多くの見えない人たちのために貢献できる分野でもあります。研究活動では、街を歩くフィールドワークや地域の人たちとのワークショップも行う研究室も多いです。

就職先

 都市計画・まちづくり系研究室出身の人たちは、都市計画事務所や組織設計やゼネコンの都市計画部、または自治体の公務員としてまちづくりにかかわる仕事に携わる傾向が多いですね。

歴史系研究室

<特徴>

 こちらにおいては、建築や都市がどのように形づくられたのかの歴史を探る研究となります。様々な時代や場所があるのでそれによって研究テーマも変わりますし、建築評論・思想の研究をされている先生もいれば、歴史的建造物の保存、また民家の調査や保存・再生と活用などもテーマとしている先生もおられます。

就職先

 ここの研究室出身の人は就職先も様々です。あえて言うなら建築に関する出版社などメディアに関するところを希望する人が多かったりします。面白い分野ではあるのですが建築史で食べていくのは難しいですね。

建築構法・生産系研究室

特徴

 建築構法とは建物の作り方ということになります。この研究室では建物がつくられる材料の組み合わせ方やそのプロセスにかかわる生産に関してをテーマとしています。建築をつくり・維持していく持続可能な仕組みをのマネジメントの視点を重視しているわけですね。たとえば自然材料である木材の活用など持続可能な社会に求められる建築・都市のあり方。さらには既存の建物の更新や古い団地の再生になど、建築ストックの活用にふさわしい技術の研究もしているところもあります。

就職先

 ここの研究室出身の人もまた就職先は様々ですね。そのなかで比較的多いのは、施工の道に進んで現場監督になる人。あとは建築企業の研究開発にあたる人もいれば、建築プロデュース会社で企画する人、建築のプロジェクトをマネージメントする会社に就職する人などがいました。

進路に関してはここではその傾向が多いということまでにとどめておきます。設計に関する研究室でも施工に進んだり、公務員になったりする人もおりますし、まったく建築に関係ない会社に入る人ももちろんいます。

パウレタ(一級建築士)
希望の研究室に入れないからといって、進路をあきらめることなんかありませんよ

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研究室の教官でも選べ!

 興味のある分野と同時に、その研究室の教官も研究に重要な関係をしめます。

その先生を尊敬しているか

 当たり前な話なのですが、あなた自身が尊敬したり、面白いと感じてる先生の研究室を選択してほしいなと思います。大学の先生はどちらかというと自分の研究を中心に考えている人もいたりします。でも大学という教育機関である以上、大学教授も教育者であるべきであるし、そのための人格を備えた人間であるべきだと思います。なのできちんと人間性にも着目して研究室選びをするべきだと思います。

自分を評価しているか?

 自分を評価してくれ、話している内容もうなづける先生の研究室を選択してほしいなと思います。実はこれが大事な部分でもあります。

パウレタ(一級建築士)
評価されるから伸びる部分があると思います

つまりは相性も重要です。合わない先生のところに所属しても時間の無駄になるし、自身の成長を妨げると思います。それを考えると、何人かの教官と会って話をしっかりしてみるというのはとても大切なことになると思います。

外部に開けた研究室であるか?

 外部の大学や企業などとネットワークをもって活動することで多くの経験を積むことができ、刺激になります。なので産・官・学連携の研究も行っているところ、または研究室外活動も積極的に支援したり、他大学とのコラボレーション等をしている研究室をすすめたいです。

パウレタ(一級建築士)
より広い視野を身につける事ができ、とても勉強になると思います

大学ごとで異なる研究室所属の決定方法

 あとみなさんは研究室の所属先はどのように決まっていくかということに興味があるのではないかと思います。私も学生時代とても気になっていたことでありましたので、自分が卒業した大学や友人の大学の建築学科の情報をまとめてみましょう!

好きなところにいける(人数制限なし)

 私が当時通っていた大学はこの決め方でした。よくも悪くも自由なのはいいのですが、人気研究室に人が集まって、卒業研究に対する指導時間が少なくなるという部分はあります。ちなみに私が大学生のときの研究室の人数は10人くらい。20人近くあつまった研究室(意匠系の研究室で先生が現役建築家!)もあって、先生がたいへんそうでしたね。

好きなところにいける(人数制限あり)

 第一志望から第三志望までを設定して、教授による面接などを経て、所属先が決まるということになります。個人的にはこのスタイルのほうがいいかなと思ったりします。教授も人間なので学生を見るキャパシティに限界があると思うんですよね。もちろん先生もやる気がある学生(成績が良ければなおよいのでしょうが)をとりたいと思っているでしょうし、自分の目が届く人数を指導したいと思っているはずです。

成績順

 この決め方もまあ全うですよね。しっかり勉強してきた人からその順に選択権があるというのは所属先の決め方のなかで一番フェアだと思います。なのでしっかり勉強しておくことも大事ですね。さらには面接などの内容もふまえて最終決定するというのがわりと一般的な流れですね。

抽選やじゃんけん

 この決め方は学生にとってはかわいそうですよね。他の大学の友人から聞いた話ですが、その学校はじゃんけんで人数制限がある研究室の所属を奪い合ったらしいです。これは学校で決められたことではなく、学生同士で話し合った結果、そうなったということです。基本お互いに譲り合ったりというかたちにはなるのですが、学生生活の集大成として、どうしても自分の希望の研究室に行きたい!そういう人があたりまえですが多いわけです。ちなみに負けてしまった女の子は泣いてしまったとか。

パウレタ(一級建築士)
これはかわいそすぎますよね

研究室所属決定前の面接について

 研究室の所属にあたって、通常は担当教官との面接は行います。面接にあたっては、あなた自身と教官の一対一が一般的だと思います。就職の面接ほど緊張感のあるものではなくフランクな会話となるはずですが、やはり教官もやる気のある学生がほしいと思っているはずです。なので以下にあげたもので準備をすることで面接はうまく進んでいくであろうと思います。

ポートフォリオ

 自分がどのような学生であったかをアピールする材料としてはポートフォリオが有効なアイテムとなります。設計であれば、これまでの設計課題をまとめたり、その他参加したコンペの作品などをまとめたりして面接にのぞみましょう。

ポートフォリオのまとめかたを書いた記事もありますのでご興味あるかたは見てみてください!

 設計で卒業をせず、研究論文でいこうと考えている人もいると思います。その行きたい研究室の先生の授業に関するレポートをまとめたものなども話題としてはつかえるかと思います。とにかく、やる気があることを表現アピールするにはどうしたらよいかを考えて動いていきましょう。

卒業研究のネタ

 教官としては、面接に来た学生がどのような研究をしたいかというのは興味のあることですし、そこでやる気の度合いを見ます。口頭で語るのもいいですが、かんたんなものでもいいので、研究に関する企画書をつくってもっていくと話しがよりしやすくなると思います。良い先生であれば、その姿勢をおおいに受け入れてくれることでしょう。

進路についてのネタ

 上記であげたポートフォリオや卒業研究の話題を軸にしながら進路の相談なども聞いてもらうともしかしたら話が展開して盛り上がるはずです。たとえばポートフォリオの修正アドバイスや研究内容に関するもののほか、研究室のネットワークがひろがって行きたい会社との先輩などにもつながったり(これは期待させすぎですね)するかもしれません。

 とにかく自分のなかにあるものを出し切ってみたほうが良い結果があるように思います。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。私自身もいろいろ悩んで先輩に相談したり、友達の話を聞いたり、また何人かの教官にアポをとっていろいろ話を聞いたりしたあげく決定しました。

パウレタ(一級建築士)
建築という道へ進むと決めたことのも悩みに悩んで決めたことなのですが、建築という分野の大学に入ってこんなにもまた選択肢がいろいろあるとは思っていませんでした

特にこれからの時代はさらに建築に関する仕事の枠組みがより多様化してくると思います。建築は時代と社会の背景によって常に変化していきます。その風を自身の感性を駆使しながら未来を描いていってみてください!

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