建築学生へアドバイス

建築学生は世界の丹下健三による傑作建築5作品を見よ!

日本で建築を学ぶ学生には「世界の丹下」の建築作品を是非みてほしいですね。そのなかでもこれからご紹介する、私が厳選した5作品はまだ現存しているはずです(1作品だけはちょっとあやういかも)!目で見て感じるパワーは半端ないです。感動しますよ!

広島平和記念公園

 この建築を含めたランドスケープは丹下の建築家としての出発点となる作品です。広島県出身の丹下はコンペ当選によりこの設計を手掛けることとなりました。その後国際的に高い評価を受けた最初の戦後建築でもあります。

公園の中心施設として人々を出迎えるのは、東西およそ82メートル、南北およそ18メートルという巨大スケールをもつ広島平和記念資料館です。鉄筋コンクリート造によるこの建物は、つつみ型の断面形状を持つ柱が配列されたピロティのある構造です。2階南北面の日本的な美意識を感じさせる繊細な縦ルーバーと横長に広がる存在感がとても印象的です。教会を連想させる空間をスロープで進み降りていくと、「平和祈念・死没者追悼空間」が柔らかく広がります。

広島平和記念資料館を抜け、真っ直ぐ進むと見えてくるのがHPシェル構造の慰霊碑です。

この構造形式を採用したのは、「どの国のものでもない人類共通の建築様式」を採用することで世界と人類共通で戦災を防ぎ、平和を貫いていこうという丹下の想いが込められています。

慰霊碑をのぞくとその向こうには原爆ドームが見えます。慰霊碑と原爆ドームとの間には水盤が配置されています。遮るものがなく、軸線が美しく明快に示されています。このランドスケープの設計は、弥山から厳島神社の本殿を経て、海に立つ鳥居までの一本の軸線を意識したとのことです。

世界に向け、人類の平和を願い、過去の過ちを二度と繰り返さない想いはこのような壮大な建築思想によってこれからも存在し続けることでしょう。

東京カテドラル聖マリア大聖堂

椿山荘の向かい側にあるこの壮大な建築は、国立代々木屋内競技場とならぶ傑作建築です。第2次世界大戦によって焼失した教会を復興する設計競技で丹下案が採用され1964年に完成しました。 このカテドラルの設計にあたり建築家は、長い歴史を持つカトリック教会建築の伝統を、現代の技術を持ってどう発展させていくか、そして日本にどう定着させていくかということをテーマに設計を行ったそうです。

建物の屋根はHPシェル構造によって8枚の屋根面のコンクリート壁が特徴的なカーブを描きながらほぼ垂直近くに立っています。教会とは思えない特徴的な形状が圧巻の外観ですが、上空から見るとキリスト教の象徴である十字架が表現されています。周囲より高くのびた垂直性はカトリックの精神を表し、HPシェルによる屋根の勾配は、周辺の日本家屋によるまち並みとの調和をもたらすためのものだそうです。外壁・屋根のステンレス鋼板仕上げによる輝きは、人々の心を照らし出すキリストの光を表現しているとか。

内部は平面が十字型になっています。ふくらみを持ったコンクリート打放しの壁面が垂直に立ち上がって屋根になり、その上部がトップライトになっています。高い天井と、トップライトから降り注ぐ光は、空間を神秘的に彩られています。祭壇とその奥に見える高さ17メートルの大十字架は、その背後の窓から射す柔らかな光に照らされ、厳かな存在感を放っています。

丹下健三は2005年に91歳で亡くなりましたが、葬儀はこの大聖堂で行われたのをニュースで見ました。自分が設計した建築で葬儀が行われるなんて建築家冥利につきるとはまさにこのことなのではないでしょうか。

在日クウェート大使館

JR山手線田町駅に程近い三田の聖坂の途中、幹線道路から一本奥にある通りに入るとこの不思議な存在感を放つ建築が見えてきます。丹下は数多くの大使館建築の設計を行っていて、この建物もその1つです。

外観はいくつかのボリュームが重ねられた立体的で複雑な建築造形。上部と下部の空間ボリュームが切りはなされ、2本の大きなコア・シャフトがキャンティレバーで支えられているダイナミックなデザインです。

なぜこのような形態、難しい構造を用いての建築を構成したのかというと、敷地が狭いなかで、大使館という用途に応じた設計をしなければいけなかったためです。大使館という施設は、各国の大使が業務を行う「官邸」と、居住するための「公邸」に分けられています。そのなかで大使館の官邸機能と公邸機能のスペースを明快に区分するため上下に分けた結果がこのような外観となっています。

下の閉じられた空間部分が官邸。上の開放的で眺めの良さそうな空間部分が公邸となっています。その中間に生まれた空間は空中庭園となり、アクセントになっています。この外部空間はアラブの伝統的な建築様式を再解釈したものであるとのこと。

敷地やその用途に応じ、難条件から、その国の文化を尊重して、そこからさらに空間や技術としての質を高め、最終的に美しい建築へと昇華しています。

この建築、建て替えの話があって、今はどうなってるのか。まだ残ってますかね?とにかくまだあるなら是非見ておいてください!

香川県庁舎

1958年に完成した香川県庁舎は丹下の初期の傑作といわれています。西洋に学んだ鉄筋コンクリート建築と、柱と梁を組み上げる日本の伝統が融合した美しい建築で、その後の官公庁や文化施設のビルディング・タイプとなりました。特に打ち放しコンクリートによる柱梁の構造美の意匠は、世界に高く評価されています。丹下は尊敬し続けてきた建築家ル・コルビュジエによる近代建築の5原則、ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面に 基づいた近代建築の原則に和の要素が組み合わせ、完成度の高い日本のモダニズム建築を実現させたわけです。

建物は高層棟、議会棟、中庭がコンパクトにまとまっていて、それを結びつけているのが議会棟1階のピロティです。広場のように通り抜けできるようになっています。2層分の高さからなるピロティが市民に対して開かれており、中庭へ、あるいは高層棟のロビーや屋上へと導いています。

この建築は全体に渡って、丹下の意匠に対する想いが浸透し、「美しいもののみ機能的である」 と言い放った丹下健三自らの美意識が建築化した作品です。

国立代々木屋内競技場

 この建築は1964年に開催された東京オリンピックのためにつくられた体育館です。言わずと知れた丹下の代表的作品であり、彼を「世界の丹下」とたらしめた 戦後日本の記念碑的建築作品です。行ったことがあるかたも多いと思いますが、建築のもつオーラに心を動かされます。

この建築の屋根は、柱で支えられてはおらず、ケーブルで吊り下げられています。体育館の吊屋根は、吊り橋と同じ技術を用いて構成されています。これらによって、巨大な空間を支えるケーブルとコンクリートには大きな緊張感を生み出し、よりこの建築の強さたるものを際立たせています。

 国立代々木屋内競技場は二つの体育館があります。大きいほうの第一体育館は2の柱から小さいほうの第二体育館は1本の柱から、屋根全体が吊り下げられています。どちらも観客競技集中してもらうために考えられた、内部に柱が立っていない構造となっていますそのケーブルが描く曲線的な構造美は、空間に壮大さをもたらしています。迫り上がるかのような湾曲面で構成された大屋根は、建築に強い求心性と外に向かって開こうとする遠心性をかねそなえた空間をつくりだしています。

当時で最新の技術を駆使してまだ世界が見たことのない新しいものを作り上げる。日本独自の技術において現代建築はいかにあるべきかという野心にあふれた建築。そのような歴史的象徴性を背後に受けながらこの建築は存在しています。

参考資料:丹下健三(鹿島出版会)、丹下健三(新建築社)

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