建築学科に入り、そしてそこで設計を学び、その集大成として卒業設計というものがあります。これ、大学では通常卒業論文を書いて卒業という流れになることが多いと思いますが、建築学科では卒業設計で卒業単位を取得できたりします(大学によっては卒業論文と卒業設計の両方を行わないといけないところもあります)。
この卒業設計、単なる思い出づくりだけにとどまらず、これから建築設計で生きていく人は特に、これからの自分の基本軸にもなりえるので、大事に考えてほしいと私は思います。大学院まで進学して就職活動する人にとっては、この卒業設計のできが、採用に大きく影響してくるでしょうね。
ということで、これから卒業設計のことを考える建築学生のために、卒業設計にむけて考える具体的なことをあげてみたいと思います。
まずは時間を設計せよ!
まず、設計においてスケジュールを考えることは必須でしょう。提出物の締め切りまでごのくらいあって、それをたとえば企画、設計、制作とわけるとして、それらをどの時期までに完了させるかということが大切ですよね。大学のゼミで指導もあると思いますので、それらをうまく活用してきちんと計画たてていきましょう。
自分の能力や成長を予測し、計算せよ!
どんなにすばらしいアイデアでも、それが提出物として表現できなければ意味がありません。その表現手段としては、アイデアを設計図としてまとめる、そして設計図では第三者に伝わりきらない部分を建築模型であったり、3DのCGパースであったりなどで表現するなどしなければいけなくなると思います。
それらの技術を自分が現在でどの持っていて、なおかつこれからの数ヶ月間でどのように成長して作業をこなすことができるかを想定しなくてはいけません。これらは上記で書いたスケジュールにも大きく影響してくるでしょう。
制作費用も計算せよ!
パソコンでの作業をはじめ、打ち出す紙やプリンターなど、提出する図面等を作成するにしてもいろいろ用意していなければいけません。
建築模型にしても、材料を買ったりなどそれなりにお金がかかります。しかも一人で大きな模型をつくるのには時間がかかります。それを少しでも短縮させるためには、後輩などにお願いして手伝ってもらう、という方法があるのはさきほど書いたとおりです。でもそれにしてもタダというのも申し訳ない。ごはんをご馳走するとなると、それもまあお金がかかりますよね。お金も沸いてでてくるものでもありませんし。バイトで稼ぐや親から支援してもらうか、など資金調達もそれなりに考えておかないといけないでしょう。
自分のやりたいテーマ、空間、計画敷地をフィックスさせよ!
さて、ちょっと卒業設計そのものの内容についてもふれてまいりましょうか。
まず自分のやりたいテーマとやりたい空間は必ずしもイコールにはなかなかならないということをまずわかってほしいと思います。建てる敷地にしてもそうです。
そうですね。何か例をあげてみましょうか。有名な場所がいいですよね。そうだ、「築地市場跡地」を敷地として設定したとしましょう。
ここはメディアでも多くとりあげられている、問題意識のつまった場所ですよね。敷地もとても広い。ここに何か設計するということはこれからつくられるものが何かと常に意識しなければなりません。そこに自分の設計能力が立ち向かっていき、勝つことができるか。私ならできないなと思い、選択はしません。その場所そのものが強すぎて、何を提案しても悩んでしまうような気がするのです。すごく問題意識がつまった場所でそれがよさそうでも、自分のつくる建築空間がその場所に負けてしまうと、その作品の出来は残念なものになってしまいます。もちろん成功する例もあるかと思いますが、たまたまであると私は考えます。
今説明したことを簡単な図にしてみましょう。
これらを常に行き交いしながら、内容をつめていくという最初の設定は、あとの設計作業をしやすくしますし、やっていての面白さにも関係してきます。設計内容を進めていくシミュレーションもある程度行うことが大切です。
たしかに先輩のおっしゃることもわかります。たとえば雑誌などで見る建築家の作品があったとしましょう。あれらは数々の空間スタディのなかからその敷地やかかげるテーマにあうものをピックアップしているはずです。数々の模型をつくってはこわしてようやくそこにたどりついた。時間と苦労のたまものであるでしょう。でもこの案が彼らにとってはほんとうにやりたかった空間なのかはわかりません。
卒業設計はそれが選択できる課題であります。だから、やりたい空間があるのであればそれにあいそうなテーマや敷地を選ぶということも1つの方法論なのです。
建物用途はしっかり設定しよう!
次は設計する建物の内容についてです。まず誰かに「この建物は何?」と聞かれたときに、簡潔にその用途を伝えることができるものにしましょう。たとえば「集合住宅」とか、「美術館」とか、「図書館」とか。
そこからどんな集合住宅なの?美術館なの?というふうに発展できるようにしたほうがいいです。
もちろん現代においては多様な建物が存在して、一言では説明できないものも増えてきているのは事実です。だからこそ、第三者に設計者が簡潔な言葉で提案したものを説明するということは重要なのではないかと私は思います。
たとえば、こういう例をあげてみましょうか。ある私の建築学科の同級生はアートに興味があった人でした。なので、建築もアートよりな提案になったわけです。でも私がいた建築学科は美大系の大学ではなかったため、わりと建築計画うんぬんという堅い考えの人たちが多かったのです。それらの人たちは、彼の作品を評価しなかったわけです。
制作場所はどこにするか?
提出物の制作場所はどこにするか?というのは悩ましい問題であると思います。たとえば学校で制作となれば、近年はあまり24時間開放しているというのも私が学生であったときよりも少なくなったように感じます。でも模型制作などは学校でやったほうがいいと思いますね。家は動かなくていいという利点がありますが、やはり家でやるとなると搬入がたいへんです。電車はおそらく無理、車などでの搬入が現実的であるかなと思います。
提出間近であればもうどちらかに決めて作業を行っていくしかないとは思いますが、私がお勧めするのは模型制作などは学校で。
その他の作業は家でというようにすることで、ある程度作業に計画性がでてくると考えます。手伝ってくれる人にとっても、家に行くよりも学校のほうが通いやすいとおもいます。
先輩の卒業設計をお手伝いしてみよう!
機会があるなら卒業設計の手伝いをしてみてはいかがでしょうか。そこで上下関係の知り合いができて、あなたが卒業設計をするときに助けてくれるかもしれません。時間のとられる作業かもしれませんが、こういう出会いや機会を大切にして、それを有効に使えるようにしてみるのもひとつだと思います。
卒業設計展示や発表は必ず見ておこう!
自分の大学の卒業設計展示や発表、ポスターセッションなどは見ておいてください。あの姿が近い自分の将来の姿になるでしょう。
できれば必ず見に行ってほしいのは、優秀者の卒業設計展ですかね。有名なものをあげてみると、御茶ノ水にある画材屋レモン画翠が主催する「学生設計優秀作品展(通称レモン展)、あと仙台メディアテークで開催される「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」があります。見ててとても勉強になりますし、面白いですよ!
また学外でも優秀者の展示、または他大学でも行われているので見に行ってみても面白いと思いますよ!堂々と他大学の施設内に入るのもなかなか楽しいものですよ。自分の大学とはまた異なる作品の傾向も見て取れるかもしれませんし、ヒントがそこにはたくさんつまっています。
図々しいかもしれませんが、つくった相手に話しかけるというのもいいと私は思いますね。聞かれるとまあほぼ必ず答えてくれますよ。そして熱意があればあるほど自分の聞いた以上のことを彼らはこたえてくれるはずです。
ゼミに参加して教官や同級生に途中評価を受けよう!
卒業設計のアイディアや設計図を考え、構築するには研究室のゼミに参加してそれらを皆に伝え、評価、感想をもらうことが大切です。設計という作業は自分のためにするものではなく、必ずクライアントがいます。
学生のうちは大体が教官になってくると思いますので、すべての意見を丸呑みする必要はありませんが、説明し、何か言ってもらうことで、自分の案を客観的に見ることができる機会になると思います。まずは身近な同級生や先生がいいなと思うものでないと、より多くの人たちがいいねと良い評価を得ることは難しいと思います。この機会をおおいに活用するべきだと思います。
卒業設計は自分だけの力だけでやる必要はない!
卒業設計は自分一人の力でやりたい。そうかたくなに思っている人がいたらこう言わせてください。
この意味は卒業設計そのものを誰かに一から十まで丸投げしちゃえよという意味ではありません。自分のやりたいこと設計の考えをきちんと手伝ってくれる人に伝えてそれを作業でやってもらうぶんにはいい、ということです。これは社会に出て設計の仕事を行っているとまさに感じることです。
こんな知り合いの例がありました。私の研究室の同級生(女子)はその研究室の大学院生と交際しておりました。その大学院生の先輩っていうのがとても設計ができる人で、彼女の卒業設計の図面表現をほとんどディレクションしていました。そして彼を慕う後輩が彼女の建築模型を手伝ってくれたものですから、その提出作品の完成度たるやもうすばらしい。彼女は教授たちから満場一致の評価をもらって最優秀賞をゲットしたわけです。でもこれ、彼女が考えた企画や基本の考え方を彼氏である先輩とその後輩が作業をしてかたちにしただけなので、問題はありません。もちろん彼女自身もけっこう設計はできる人であったし、しゃべりも上手なので、発表も教授がうんうんとうなづいて聞いておりました。
というわけで、卒業設計は手伝ってもらえるなら、その力を分けてもらいましょう。それが手伝う人やあなた自身の勉強にもなりますよ!
Diploma(卒業設計)で賞をとろう!
と私は思います。もしかしたらこのブログを読んでいるあなたがいま通っている大学の建築学科は第一希望でなかったかもしれません。でも、「いい大学でもその十番目だったら、一番がいい!」ということです。
つまり卒業設計で最優秀賞をもっているか、そうでないかでは明らかに自分の肩書きとしては差があります。もちろんそれだけで自分の価値が決まるわけではないけど。
でも採用する設計事務所や企業の印象というのは異なるでしょう。期待値や与えられるチャンスも違うかもしれません。
だから設計を仕事にしたい人は絶対卒業設計で賞をとることを目標のひとつにするべきです。
学内で評価されなくても現在は学外で評価をしてもらう機会がある!
最近では卒業設計展示は学校内にとどまらず、学生らの団体が主催する展示や競技会もあります。そういうのには積極的に参加するべきであると私は思います。特に競技会では現役の建築家が審査員に呼ばれていたりします。彼らから少しでも感想をもらえる機会を得ることができるのならば、それは今後のあなたにとって大きな財産になるはずです。
学校の賞には選ばれなかった大学の同級生が上記にあげた「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」では入賞したという例があります。
まとめ
いやはや、つい熱くなってしまい、たくさん書いてしまいました。それだけ私もこの卒業設計というものに力を入れていましたし、満足した部分よりも後悔した部分がたくさんあったからだと思います。
とまあ、卒業設計は建築学生にとっては一大イベントであることには今もちがいないと思います。提出後に後悔が少ないように、しっかり準備してみてくださいね!健闘を祈ります!!
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