
建築を学ぶ学生、そして日々設計に取り組む実務者にとっても、建築雑誌は必須の教材です。雑誌には単なる作品事例だけでなく、その作品を通して社会の動向や建築業界の最前線がどのように動いているのかを知るヒントが詰まっています。
雑誌をパラパラとめくって作品を眺めるだけでも楽しいですが、建築雑誌はれっきとした専門書の一つです。建築を深く学ぶなら、明確な切り口を持って読み解くことで、それがあなたの設計ノウハウとして確実な蓄積となっていきます。
そこで今回は、私の体験と先輩からのアドバイスに基づいた、建築雑誌を最大限に活用するための具体的な設計の学び方をご紹介します。
建築雑誌は「どこで」「どう集める」?—図書館からネットへの変化
かつては、建築設計事務所や大学の研究室のように、学生も建築雑誌を買い集めることが理想でした。しかし、「お金がない」「置く場所がない」という現実的な問題があります。以前は図書館でバックナンバーを読み込むことをアドバイスしていましたが、今は状況が変わっています。
これまではアドバイスしてきましたが、今はもうそんな時代ではありません。現在では建築作品のデータをネットで公開し、一部を無料で閲覧可能にしている出版社が増えています。
建築情報がネット環境から簡単に手に入る時代になっています。デジタル情報を活用しない手はありません。
まず押さえるべき!おもな建築雑誌の紹介
まずは「どんな雑誌があるの?」という学生のために、建築を学ぶ上でチェックしておきたいメジャーな建築雑誌をいくつかご紹介します。ここで挙げるもの以外にも素晴らしいメディアは多くありますが、まずはこれら主要な雑誌に目を通すだけでも、情報過多になるほど充実しています。
1. 新建築

- 特徴: 日本の建築メディアを長年リードしてきた代表格。今も昔も最新の新しい建築作品はこのメディアから発信されます。建築家として名を上げたい設計者にとって、ここに掲載されることが第一の目標となることが多いです。
2. 新建築住宅特集
- 特徴: 新建築から住宅作品に特化した雑誌です。私は住宅に興味があり、住宅専門の設計事務所に勤務していた時期があるため、この雑誌から掲載作品を多く学ばせてもらいました。
3. a+u(エーアンドユー)
- 特徴: 新建築社が出版している海外の建築作品を紹介する雑誌です。日本とは異なる感性で生み出される建築は、常に私たちの設計意識を刺激してくれます。
4. GA
- 特徴: 新建築と並び、建築作品を発信している主要雑誌の一つです。「雑誌にも作品性がある」と言わんばかりの強い個性があり、それが日本の建築メディア全体を押し上げる原動力ともなりました。
- 姉妹誌: 日本の建築を特集したGA JAPANや、住宅を特集したGA HOUSE、海外作品を中心としたGA DOCUMENTなど、シリーズ展開も豊富です。
5. 住宅建築
- 特徴: 建築資料研究社が編集している、その名の通り住宅建築に特化した雑誌です。上記雑誌と比べ、実務者好み、玄人好みの住宅を選別している印象を受けます。学生の頃はあまり見ていませんでしたが、住宅の仕事をするようになってから、その選球眼の鋭さに気づき、よく目を通すようになりました。
6. 日経アーキテクチュア
- 特徴: 建築業界に関するビジネス情報を主に取り上げた雑誌です。業界の動向を最先端から切り込んでいる内容は大変勉強になり、働き始めてからは欠かせない情報源となっています。こちらは店舗販売されておらず、購読契約が必要です。
建築雑誌の「何」を見て設計を学ぶのか?
さて、多くの雑誌がある中で、あなたはまず何を見て勉強すべきか。ここが最も重要な「切り口」となります。この勉強法は、私が建築設計という視点から雑誌をどのように活用してきたかの具体的な実践例です。

1. 作品写真、図面、テキストの関係を読み解け
建築作品を理解するためには、必ず外観・内観などの建築写真、設計図面、そして設計者による作品説明テキストをワンセットで見てください。これらを総合的に眺めることで、その建築がどのような設計ロジックとバランスをもって成り立っているかを知ることができ、これは実際に建築をつくる上で最も重要な力となります。
2. プランを読み込め!プランニングの引き出しを増やせ
素晴らしい建築作品ほど、プラン(平面図)が徹底的に考え抜かれ、練られています。
また、経験豊富な建築家の作品には、**プランの「癖」**のようなものがあります。
- 「この建築家は、アプローチの仕方がいつもこのパターンだ」
- 「部屋のつなぎかたが同じロジックだ」
といったことが見えてきます。人がつくる建築プランは、その人の設計ロジックが線となって表現されています。プランには様々なパターンがあり、プランニングが上達するには、まずその「引き出し」を増やす必要があります。そのためには、多くのパターンを知り、自分の頭の中で整理しておくことが不可欠です。
[学びのヒント] 多くのプランをなめるように見て、自分のものにしていきましょう。それは、あなたが将来、自分のアイデアを実現するための大きな設計力となるはずです。
3. 作品を「ファイリング」し、あなただけの設計資料を構築する
単に雑誌を読むだけでなく、アウトプットを前提とした収集と整理の作業を行いましょう。
a. 収集とファイリング
雑誌から興味を持った作品のページをコピーして、ファイリングしてみましょう。最初は**直感的な「好き」**という気持ちで構いません。とにかく、心を動かされたものをたくさん見て収集することが第一歩です。この作業の良いところは、あなたが心惹かれた作品のみがそこに集約されていく点です。勉強は、自分の趣味や関心事から入るのが一番効率的です。

b. 分類化と整理
収集したものに再度目を通すうちに、あなたの中で無意識のうちに分類ができてくるはずです。それは、外観の印象であったり、建物のプラン構成であるかもしれません。
これらの分類を頭の中で整理していくと、また新しい建築作品と出会ったときに、「ああ、これはあの時に見たこのタイプの進化形だね」といったように、**建築作品に対する自分なりの「目」**が養われていきます。
- 用途で分類: たとえば住宅作品にしぼってこの作業を行うと、住宅ひとつとっても非常に多様なパターンがあることに気づかされます。
- 時系列で分類: 作品を発表された年代順に並べてみるのも面白いです。この分類では、建築の考え方や技術が時代とともにどう変革していったかを、作品を通じて見て取ることができるはずです。
雑誌「全体」を見て時代を探る—コンペに役立つ視点
建築雑誌は、単に個別の作品事例を見るだけでなく、そこから時代背景や建築界のトレンドを読み解くことができます。
ある優秀な先輩は、「自分は**直近1年間分の『新建築』**を読み込めば、最近の建築界に何が求められているかがわかる」と言っていました。このアドバイスを実践してみたところ、これが非常に効果的で、コンペなどの設計課題に取り組む際のヒントになったという実感を私自身も持っています。
もちろん、普段の日常生活でアンテナを張り、社会の変化に気づくことは大切です。しかし、その気づきが「現在の建築の流れにおいてどう位置づけられるのか」を確認・検証する上で、建築雑誌は最も適した媒体だと言えます。
まとめ:情報がデジタル化・AI化される時代に向けて
いかがでしたでしょうか?
建築設計を志す人にとって、建築作品が集積されている雑誌は、時代を見つめ、自分自身の設計思想を深めるための、今後も非常に重要なツールであり続けるでしょう。
今後は、出版業界も変革を遂げ、雑誌として扱っていた情報もデジタル化が当たり前になり、情報が簡単に手に入り、そしてカスタマイズしやすくなっていくでしょう。
- 自分にとって有益なものをどう集めるのか?
- それを自分の中でどう整理していくのか?
このプロセスを深く考えることこそが、あなたの建築に対するビジョンをさらに広げることに繋がります。
そして、上で私がお勧めしたような**「プランの分類化」や「傾向分析」といった勉強法**も、AIがサクッとやってくれる時代になりつつあります。だからこそ、**あなたはAIが出した結果を「どう解釈し、どう設計に活かすか」**という、より本質的な力を磨くことに集中すべきなのです。