建築学生へアドバイス

建築学生におすすめしたいピーター・ズントーの建築5作品!

今回は私がリスペクトしてやまない建築家ピーター・ズントーの作品についてをご紹介したいと思います。

彼の空間や使用する素材の使い方、また信頼をおく職人にしか施工させないといわれるストイックな建築に対するこだわりはもうリスペクトしかありません!

その彼の作品から今回は私が厳選した5作品をご紹介したいと思います。

テルメ・ヴァルス

この建築は美しい山々に囲まれたスイス中央部の小さな村にある温泉施設です。

 建築外観は草に覆われ小高い丘と同化しているようにみえます。開口はまるで山の斜面にある洞窟のようです。

内部の浴室空間は迷路のようで、温泉の温度によって、大小さまざまな部屋に分かれています。

地元の自然石の積層でできている空間は、洞窟の中のようで、温泉は地底湖のようです。均一に積層された石の壁の素材感は密実な表情をつくり、その空間の連続がまさに洞窟のような場所をつくりあげているんですね。スリット開口から差し込む光が水面に輝く風景は神秘的で幻想的な雰囲気です。山の美しい景観を取り込んだ眺望と洞窟の対比された空間がすばらしいです。

山の石からの神秘的な空間、闇と光、水面におちるきらめく光、湯気をとおりぬける光の拡散、暖かな温泉による石のあたたかさとふれあい、石に囲まれることで響く水の音。訪れる人々はそんな静謐でくつろぎのある入浴体験をとおして自らを清めています。

プレゲンツ美術館

この美術館はオーストリア、ドイツ、スイスの国境上で交差するボーデン湖のほとりにあります。

建築はコンクリートの構造体にガラスで覆われています。同一の大きさのブラストされたガラスパネルが左右で重なりあい、上下方向に微妙に角度をつけながら連続して設置されています。そのため光の反射が一様でなく、それが建物に柔らかな表情を与えています。

内部の1階展示室は、壁面からさきほどのガラスを通して自然光が取り入れられています。2階より上の展示室は、壁面には開口部がないかわりに、天井のガラスパネルを通して自然光を取り入れています。壁に開口部が無くても明るさは保たれ光に満たされているというこの矛盾した状態が不思議な雰囲気をつくりあげています。

光のかたまりのような空間からなる、素材の繊細な存在感。この本質的なもの必要なもののみのそぎ落とされた空間は彼の建築の特徴でもあります。

ブラザー・クラウス野外礼拝堂

この建築はケルン郊外の丘の上に建つ小さな野外礼拝堂です

ベージュかかったコンクリートでできた少し変則的な五角柱の建物の入り口には三角のドアを開ける56人くらい入れる空間があります。なかは天井がありません!天井を見上げてみると、神秘的な光が降り注いできます。ガラスのフィルターがない分その光は野生的で、一見荒々しい印象があります

この教会はこの地に住む老夫婦の依頼で建てられたもので、設計から9年かかって2007年完成したとのこと。というのもこの建物、クライアント、村の人たち、そして建築家であるピーター・ズントー本人までもが一緒になって施工されたいわゆるセルフビルドの建築なんです。

 建物の作られ方もちょっと変わっています。壁は112ほどの長い丸太を円錐形のテント小屋のような形に組んで、コンクリートの枠に使っています。その周囲にコンクリートを50㎝ずつ1年をかけて流し込み、最後に内部の丸太を燃やす事で空間を作っています。その荒々しい仕上げに煤が付着しているので天空からの光は、その黒いギザギザとしている壁をなめるよう降りてきます。

 そして壁にある300箇所あまりあるPコン跡には吹きガラスが埋め込まれています。天空から降り注ぐ神々しい光が、壁面に埋め込まれたガラス玉に反射し、内部に光が漏れます。

荒々しいけど繊細原始的崇高な空間と理念がそこには存在しています

聖ベネディクト教会

こちらの建築作品はスイスの山間にある村の人々のための小さな教会でありますが、ズントーの代表作です。

山の中腹にある傾斜地にその建築は姿をあらわします。地域木材をうろこ状に重ね張りした繊細な外観はとても美しく、建築の表情をとてもやわらかく見せています。周辺の家々を見下ろすように存在するこの建築の佇まいは、アルプスに囲まれたこの地域の美しい風景と一体化しています。

教会内部は、上部の開口から光が入るだけです。ノアの箱舟をイメージしたという内部空間は船底のような木組みが天井を支えています。木の葉状に組まれた梁を浮かせたハイサイドライトからの降り注がれる光が祈りの空間を演出します。そこには教会によく見られるステンドグラスのような装飾的なものはありません。光の合間から見え隠れするのは空の色や、周辺の緑のみが存在するだけのストイックな空間は、この場所に静寂と落ち着きをもたらしています。

光が祈りの空間として抽象化され、建築というフィルターを介して神聖なものに変換されていることに建築のすばらしさを感じる傑作です。

聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館

ドイツの世界遺産ケルン大聖堂から程近くにこの建築はあります。第二次世界大戦によって破壊され、廃墟化した後期ゴシック建築の教会堂、ゴッドフリート・ベーム設計によって1950年代に建てられた「廃墟の聖母礼拝堂」、その下にあるローマ時代から中世にかけての遺構、それらをズントーは設計によって融合し、美術館として生まれ変わらせました。

この建築では廃墟となった教会の多角形プランを活用し、かつ既存の壁や今も使用されている礼拝堂を残しながらその上に美術館を覆うという提案がなされました。

1階部分は古い教会部分がコンクリート柱や積層したレンガの壁による大きな展示空間をつくりだしています。下には発掘された遺構が保存、展示されています。その上には木製通路がジグザグに曲折しながら設置され、来館者はそこを通りながら鑑賞します。展示空間には積層したレンガによってつくられた無数の小さな隙間から内部に光や空気が入り込み、柔らかい帯状の光が降り注ぎとても神々しいです。

上階の展示室は、滑らかな漆喰仕上げの壁とテラゾーの床という静謐な雰囲気の空間となっていて、展示作品を際立たせています。展示空間の要所要所にもうけられた開口からはケルンの街並みをながめることができ、それが空間のアクセントになっています。

ズントーの魔法によって、この建築は古い部分と新しい部分の境界が曖昧となり、でもそれが絶妙に美しく融合している感動的な作品です。

□建築マイスター!ピーターズントー

いかがでしたでしょうか?やはり彼のつくる建築作品は職人的な細部の美しさがありますよね。どの建築作品にも彼の建築に対する哲学や理念がつまりつまっています 。建築家というより建築マイスターと称したほうがよいでしょう。多くの建築家に彼がリスペクトされる理由がとてもわかります。彼が「世界から素晴らしいと絶賛される空間」をつくるというのもうなずけますね!作品集でだけでなく、是非とも現地に足を運んで彼の建築を体感していただきたいです!

参考文献)a+u ピーター・ズントー、a+u20131月号、a+u 20084月号

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