以前、私はブログで「設計提案よりもヒアリングが大事だ」とお伝えしました。
しっかりクライアントが本当に欲しているものを掴みきれたなら、提案なんて楽勝、プレゼンも喜んでもらえること間違いなし!と言い切りたいところですが、やはり人間の考えていることは予測不能です。実際に提案してみてクライアントの反応を見るまでは、正直なところ私も怖く、緊張もします。

だからこそ、私たちは最大限の検討と提案の準備をして打ち合わせに臨む必要があります。そうすることで、クライアントにどう伝え、どう配慮するべきかということが、少しずつ見えてくるようになりました。提案を素晴らしいものにするのは大前提ですが、さらにそれをいかに伝え、自分の検討努力や成果を相手に理解してもらうかということも同じくらい大切です。
そこで今回は、提案準備のポイントに加え、私のクライアントに対するプレゼンとその後のフォローに関する一連の流れを解説しながら、クライアントとの信頼関係をどう構築していくかの方法を探っていきたいと思います。
※今回は、クライアント個人に対するプレゼン(少数の場合)を想定した内容です。
プレゼン成功に向けた設計検討とその準備
プランがしっかりしていればクライアントは勝手に読みとってくれる
一般のクライアントの多くは、まず間取りを見たがっています。
もし設計者が提案したプランがクライアントにとって良ければ、彼らは**勝手にすっと提案を読み取ってくれます。**説明は最小限の言葉を添えるだけで理解し、うんうんと頷いて設計者の話を聞いてくれるでしょう。逆にプランが悪ければ、プランばかりを見始めて、ほかのものや話が全く入ってこなくなります。

クライアントの心をつかむプランを作るには、多くのパターンを検討しておくべきです。ヒアリングから最初の提案プレゼンまでどれくらい時間があるかにもよりますが、私は少なくとも3つの案を準備しておくようにしています。その3案の中から、自分の中でベストな1案を打ち合わせのメインとして用意し、その他の案は簡単な見せれる形として残しておきます(これらの案の具体的な使用方法は後述します)。
[注意点] 「3案準備する」とは、3つだけ検討すれば良いという意味ではありません。少なくとも候補として10パターン以上検討し、その中から最低3案を候補として残し、プランや簡単な模型として形にして残しておくという意味ですので、お間違いなく。
CGより模型のほうがクライアントに響く
私は、模型によるプレゼンを強くおすすめします。
しっかり作り込んだ模型があると、打ち合わせがスムーズに進んでいきます。CG(コンピュータグラフィックス)は限定された建築シーンを切り取る形となるため、そこだけで打ち合わせを盛り上げるイメージが掴みにくいのです。実際、試したこともありますが、**模型のほうがクライアントの受けが良かったです。**これらの経験から、私はいつも模型によるプレゼンをしています。
もしCGを採用するのであれば、建築の中を回遊できるアニメーションを作るなど、提案した建築におけるシーンをたくさん確認してもらう工夫が必要です。それがクライアントのイメージをより明確にさせる助けとなります。
そして、クライアントが設計提案を気に入って方針が決まったなら、プレゼン後はその模型を差し上げるのが良いでしょう。私自身は実際に贈っています。「模型は施主へのラブレターだ」と先輩から聞いたことがあります。
模型の演出について—サプライズは必要ない
私が設計者としてクライアントに提案プレゼンを行う場合、模型がメインとなりますが、私は最初から打ち合わせテーブルの上に置いて準備しています。
よく模型を最初隠しておき、クライアントが来た時に見せるサプライズ型を好む人もいますが、私がこのスタイルをしない理由は2つあります。一つは個人的にそのスタイルが好きではないということです(これは好き嫌いがあり、私自身プライベートにおいてもサプライズはしません)。
そしてもう一つは経験談です。以前働いていた会社の上司がこのスタイルが好きで、私も行っていたのですが、やってみたものの毎回そんな効果をもたらしているようには思えませんでした。
なので、独立してからはただ打ち合わせテーブルに置いていますが、これだけでも十分サプライズ効果があるように感じます。クライアントは「どんな提案があるんだろう」と思いながら事務所に入り、目線の先には自分たちが依頼した建物の模型がある。これだけでも喜んでいるのは表情を見てわかります。
提案プランの客観的な裏付け
ヒアリング内容からチェック表を作成して確認する
私はヒアリング内容からクライアントの要望を必ずチェック表にして、作成したプランに抜けがないかを確認するようにしています。
クライアントにとっての要望は夢に等しいため、そこでがっかりさせないようにしたいのが理由です。彼らの想いを設計者として大事にしたいですし、打ち合わせ時間を楽しいものにもしたいのです。
悪い流れとしては、要望が抜けていたことがきっかけで打ち合わせがトーンダウンし、クライアントがプランの粗探しをするような展開になってしまう場合があります。そうなると「ここもちょっと違う」「ここはこういうイメージではない」というふうに、打ち合わせを仕切り直しせざるをえない状態になってしまいます。
作り上げた提案プランは必ずヒアリング内容と照らし合わせ、自分の提案に対する客観的な確認を行いましょう。
クライアントに対するプレゼンの実践

最初に今回の提案の意味を伝えて理解してもらおう
クライアントへ最初に提案を行うこの機会は、多くの場合、基本設計という工程の段階です。
基本設計は設計案の大枠の方向性を決めることです。まずその目的をクライアントに伝えてプレゼンを始めることも大事です。クライアントによっては細かい部分に目がいく方もいますが、「今回はプランの大きな骨格を決める打ち合わせであり、細かい部分は方向性が決まってから次のステップで検討していきます」ということを伝えましょう。
ゆっくり話しながらクライアントの様子を見よう
設計事務所勤務時代、担当物件の提案時に緊張してしまい、早口で説明した結果、クライアントとのリズムが崩れ、うまく成約に至らなかった苦い記憶があります。これは、提案内容をしゃべることだけに集中してしまったのが原因です。当時の私は**「青かった」**と反省しています。
しゃべるのが苦手であればあるほど、言葉自体が飛ばないように内容を暗記し、それを全部余さず伝えることに必死になってしまいます。これは経験や技術の不足も原因ですが、そもそも自分のことばかり考えているからそうなります。と当時の私は打ち合わせ後に気づきました。今思い起こすと、説明をしているときのクライアントの表情や目をまったく思い出せません。
誰のために提案をしているかという原点からプレゼンに臨めば、少しくらい言葉足らずでも伝わります。考え抜いた図面と模型があれば、もう説明は補足程度でも伝わるのです。本当に添えるように言葉をかけるだけでいいということが、実務経験からわかりました。
プレゼンの順序や流れ

クライアントに対する話し方について、私が悩み検討を重ねてきた中で、最近よく実行している流れをご紹介します。
1. ヒアリング内容をおさらいしよう
まず行うのは、前回ヒアリングした内容を簡単におさらいし、互いが持つ方向性を再度確認し合うことです。ヒアリング内容は議事録やチェック表で整理できているので、すべてを言うのではなく、重要でプランに影響したところだけを伝えます。
2. コンセプトを意識しすぎないで話す
次に、どんな考えをもって提案したかを簡潔に話します。これがコンセプトですが、私自身は模型を最初から見せているので、視覚情報に添える形でコンセプトが関連しているということを伝えたいと考えています。
- コンセプトを話しながらクライアントの反応を見るようにしています。もし頷いていただけているなら、さらにそのコンセプトについての想いを付け足していきます。
- 反対に、模型に気を取られている様子であれば、模型でわかる部分のコンセプト説明に終始するようにしています。こちらのほうが圧倒的に多いです。
ここで提案のコンセプトをごり押しする姿勢は控えたほうがいいです。大学などで「この案のコンセプトはなんなの?」と問われる教育を受けてきたと思いますが、たしかに考えがあることは大事です。しかし、それを前面に押し出すのは注意が必要です。
クライアントはできるだけ具体的な提案を欲しています。極端に言えば、コンセプトを重視してはいません。コンセプトはそのくらいの「裏付け」であるべきだということを実務経験から感じました。
3. 間取りはヒアリングの「答え合わせ」として説明する
次に間取りの説明に移ります。
全体の大枠から話して徐々に細部に移るように心がけていますが、細部に関しては話しすぎないようにしています。間取りに関する説明のさじ加減は難しいものです。話しすぎると実施設計レベルの話にまでいってしまいますし、話の長さはクライアントの反応に応じて調整します。
[間取りの説明例(住宅の場合)]
私の場合、住宅を例にとると、アプローチから玄関の位置を確認し、そこから優先順位の高い部屋順に説明をします。その説明は、ヒアリング資料のチェック表を頭に入れながら、要望が網羅されていることをお伝えしていきます。あえて「玄関から廊下を通ってリビングにたどり着きます」といった、図面や模型を見ればわかることは省きます。間取りはあくまでも要望の答え合わせとして使うのです。
専門雑誌と対クライアントでは説明の言葉は異なる
学生や設計実務に入りたてのスタッフにありがちなのが、建築の専門誌のような説明をしてしまうことです。これは私たち専門家同士としては伝わりますが、提案をするのは一般のクライアントです。
彼らがわかる言葉で、どれだけ提案したものの良さを伝えるかが大事になってきます。
- コンセプトもあまり抽象的な言葉を使わないようにしましょう。一言で誰にでも伝わるような意識をもって考えることが大切です。くれぐれもクライアントの頭に「?」をつけないようにしてください。
プレゼン後のクライアントへのアフターフォロー
提案が気に入られなかった場合が重要!
もしクライアントが提案を気に入ってくれたら最高です。その場合は、今後の流れをお伝えしながら細かい修正部分を伺っていきましょう。
反対に、もしクライアントが提案内容を気に入らなかったら。ここが非常に重要です。
相手も人間、私たち設計者も完璧ではないので、こういうことは起こりえます。大事なのは、どう仕切り直しを行うかということです。
私の場合は、プレゼンでメインで見せた1案以外の案や、そこにいたるまでのプロセスを伝えます。スタディした模型や図面を出して、「最初はこんなことを考えていたんだ」ということを正直にお伝えします。クライアントが気に入らないということは、そのプランの方向性がずれている可能性があるので、そこにいたる前のプランなどを見せながら、どこに方向性のズレがあったのかを図面や模型を元に確認を図ります。
[ポイント] このように、プレゼンで提案した以外の案を持ち出すことこそが、**「保険」**としての役割を果たします。
せっかく時間をつくってくださったクライアントをただでは帰してはいけません。次のステップに希望を含ませて、必ず打ち合わせを終えましょう。
まとめ
クライアントにいいところを見せたい、喜んでいただきたい。それが一番ダイレクトに感じるのが提案時であり、自分が設計の仕事をしているという誇りも持てる場面です。そして、クライアントの反応を肌で感じることで、私たち設計者は多くのことを学ぶことができます。
プレゼンは緊張しますが、一番成長できる仕事の場面であるかもしれません。
この内容は、設計事務所だけでなく、住宅メーカーやその他設計に関する企業にお勤めの方にも共通するはずです。ご自身のやり方、進め方と照らし合わせながら読んでいただければ幸いです。