建築模型は自分の考えた建築空間を第3者に伝えるための重要な情報伝達ツールであります。
現代においては3DCGによる表現も発達しておりますが、やはり模型の力はまだまだ偉大です。建築士である私にとっても、実務において建築模型は施主へのラブレターのような存在として、彼らの心をつかむ大切な存在です。
でも建築模型をはじめて制作に取り組む建築学生にとってはなかなかとっかりにくいものであったりします。
ではどうすればいいのか?まずは建築模型を制作するうえでの基本的な材料や道具の知識を知っておくことです。建築設計の作業においてはけっこうかたちから入るということは重要なんですよね。
そこで今回のブログは、建築模型を制作するうえで必要な材料や道具をご紹介していきたいと思います。
模型を構成する材料
スチレンボード
通称「スチボー」と呼ばれる模型作成での基本材料です。これを切り貼りすることで建築模型がつくられます。ボードの厚みは1mm、2mm、3mm、5mm、7mmを組み合わせて使うのが一般的です。
スチレンの両面に紙が貼ってあり、加工もしやすいです。この紙を残して「面取り」にすると、角がきれいな模型になります。
スチボー はまっすぐ、垂直にカッターを入れて2、3回しゃっしゃっとなぞるように切ると切り口がよりキレイになります。厚さのあるものだと、よりその効果がありますね。スチボーが切りにくくなったり、断面がぐずぐずきたなくなってきたらカッターの刃を折って新しい刃で切りましょう。
また、ボードの両面に紙がついてない「スチレンペーパー」というものがあります。つややかできれいな模型ができるのですが、その分汚れがつきやすいというのが欠点ですね。私はスチレンボードでの模型制作をおすすめします。
プラスチック板(プラ板)
窓など、ガラスの表現にはプラスチック板、通称プラ板を使用します。色は透明から半透明、その他の色などいろいろあり、普通のカッターでも切ることができます。カッターで軽く線を入れたりするとサッシの表現に近くなります。
同じような材料でアクリル板もあります。しかしこちらは切るのが大変(アクリル用のカッターが必要)なので、特にどちらでもいいのであれば作業性の良いプラ板を使いましょう。
バルサ材
バルサ材はバルサという原木を加工して板状、または棒状に加工した木材をいいます。
バルサ材は建築模型ではデッキ部分など木材の表現に使います。軽くて加工もしやすいです。
接着は木工用ボンドがいいですね。私ははがれないように両面テープをよく使用します。
スタイロ
スタイロフォームなどと呼ばれている発泡材です。一般的には断熱材などにあつかわれることが多いのです。
建築模型の作成においては、周辺の建物を抽象的なボリュームで表現する際によく使います。大きいかたまりを購入してスタイロ用のカッターで切り出して使用するのが一般的です。
模型部材を接着する材料
スチレンのり
スチレンのりは模型材料を接合するために用いるのりのことで、スチのりと略してよばれてもいます。名前のとおり、スチレンボードとの相性が良い接着剤となります。個人的にはこのスチのりの甘酸っぱいにおいが好きですね。
スチのりを直接部品に付ける場合はのりを出しすぎてしまわないよう、注意してください。
ベタベタにならないよう、スチのり用の注入器があります。最初のうちはこちらを使うといいですね。細かい作業に便利です。
スプレーのり
スプレーのりは、シャーっと吹き付けるタイプのノリのことをいい、図面をスチレンボード等に貼り付ける際に使います。これがいがいと価格が高いので大事に使いましょう。
スプレーのりには、粘着力の強さで種類があります。模型材料で多く使うのは「55」と「77」です。これはスプレーのラベルに記載されている数字です。55は粘着力が弱く、77は粘着力が強いです。図面を仮付けで貼って、すぐに剥がすのには、55をおすすめします。77は完全に図面を模型材料にのりづけをするために使うのをおすすめします。
あと、使用上の注意点としましては、囲われたスプレーブース内または外部などで使わないとのりが空中飛散して室内がべたべたになってしまうので気を付けましょう!あと、飛散したのりをすいこまないように注意しましょう。体にはおそらく良くないです。
木工用ボンド
木工用ボンドは水性系の扱いやすい接着剤です。使用する前は白色なのですが、乾燥して固まると透明になります。木や紙に接着でき、スチボーにも使用できます。プラスチックやゴムには用いません。
スチのりと比べると値段的には安いので人によっては木工用ボンドを愛用している人も多いですが、酢酸ビニル樹脂を成分とするので、私は酢のような酸っぱいにおいが気になりあまり使わないです(笑)。
あと乾燥するまではスチのりと比べると時間が若干かかる印象がありますね。乾燥してかたまるまでは、テープで留めたり、重しを乗せたりして固定しておくことをおすすめします。
マスキングテープ
マスキングテープはおもに製図で図面をとめるのに使ったりしますが、模型制作にもけっこう使える接着材料です。たとえば塗料のはみ出しを防いだり、部材の仮止め、またはスチのり接着後動かないように固定するために使ったりなどけっこう便利です。
両面テープ
大きなスチレンボード同士を接着する際にはスチのりやボンド、スプレーのりでは即時にうまくいかない場合もあります。そこで両面テープを併用することによってしっかりとした接着を行うことが可能となります。両面テープも幅の設定がいくつかあります。少し価格が高くなりますが、幅広タイプが模型制作には適していますかね。
道具
30度カッター
カッターは、「スチボー」などの模型材料を切るために使います。特に模型材料作成においては刃先が30度になっている30度カッターを使用すると作業しやすいです。
実際に使い比べてみるとわかるのですが、45度カッターと比べると直線を切るときの切りやすさであったり、細かい作業を行ったりするうえでは、かなりその違いに気づくはずです。
その分、鋭角なカッター刃は使用しているとすぐにダメになってしまいます。使用するうえでは替え刃が必須になります。まめにこれをぱきぱき折ってやっていないと模型の切り口がぐずぐずして全体の精度が落ちていってしまいます。
ここは模型制作の基本です!けちけちしないで切れ味が少しでも落ちたら躊躇いなく折ることをおすすめします。
少し高くはなりますが、黒刃のほうが普通の刃より切れ味が良いので特におすすめです。
カッターマット
カッターマットはカッターを使用する際に机を傷つけないためよう、その下に敷くものとなります。
大きさはA2くらいの大きさのものを使用することをおすすめします。最初は模型材料も大きいままですので、それを切るにあたってカッターマットが小さいとつい机を傷つけてしまったりすることもあります。これは悲しいですよ~。気にならない大きさのマットで行うことで作業効率もアップしますよ。
直尺(金尺)
直尺は、まっすぐな物差しのことを言います。金属製のものを模型作成では使用します。なので金尺とも呼ばれたりします。長さを測ったり直線を引いたりはもちろんのこと、金尺にカッターを当てて材料を切ったりするときに使います。プラスチックのものではカッターで切ってしまったり傷がついてしますからね。
15センチ、30センチ、60センチの直尺をもっていると便利ですよ。
スコヤ
スコヤとは金属製の直角定規のことをいいます。
用途は上のとおり、材料を切るとき、直角を出すために使用します。なんだかんだでけっこう使う機会が多く便利なので必ず用意しておきましょう。
スタイロカッター
スタイロを切るときに使用します。車や小物を作るのに最適ですが、高価ですので、できれば学校から借りましょう。どうしても必要になったならば、友達と共同購入もいいですね。
スタイロカッターはニクロム線に電気を通して高温にすることでスタイロをカットします。その際にスタイロが溶けて気化したものが発生します。吸い込むと喉に支障をきたしますの作業では注意しましょう。
ピンセット
ピンセットは、手では作業しづらい細かい部材を接合する際に使います。先端は細いもののほうが、細かい作業を行いやすいのでをおすすめします。
ピンセットは先端がまっすぐなものと曲がっているものがあったりします。どちらが良いかはお好みで!試して作業しやすいほうを選択しましょう。
その他
クリーナー20
クリーナー20は略して「20」と呼ばれています。
20は、模型や材料についた汚れを落とすために使います。汚れた部分に直接吹き付けて、数秒してからふき取るもしくは、ティッシュなどにしみこませてそれで材料をふくなどという使い方をします。
ソルベント
ソルベントは両面テープ用の溶剤として使います。あやまって接着した箇所を剥がすこともできます。
人物模型
人物模型は建築模型にスケール感をもたせる重要な役割を担っています。
人物模型にもいくつか種類があり、紙などをヒト型に切り抜いた2次元タイプ、ヒトのかたちを立体的に表現した3次元タイプがあります。
お金がない場合は2次元タイプの模型を自分で制作して使うのがいいと思います。3次元タイプはお金はかかりますが、ヒトの模型がしっかりしているとつくった建築模型の空間によりリアリティがでてきます。ここぞという勝負のときは後者をつかってみてはいかがでしょうか。
カスミソウ
模型で植栽、樹木の表現に使う材料です。制作する縮尺に合わせてカットしてつけます。
時間をおいてしまうと、色が変わったり、つぼみ部分がとれやすくなってしまいますので買ったらすぐにつかうようにしましょう。
模型制作は訓練で上達する!!
いかがでしたでしょうか?
建築模型は最初はつくるのに時間がついついかかってしまいます。昔先輩に「模型は予定の3倍時間がかかるから」と言われ、その時間を確保するために設計を一生懸命まとめた記憶があります。
ではどうすれば模型制作が早くなるのか?それは模型を正しい道具と手順で数多くつくっていくほかありません。多少手先の器用さで最初は差がつくかもしれませんが、トレーニングを積んでいけば仕事や課題で最低限必要な速度はついてきます。なにを隠そう私も手先が不器用なタイプではありましたが、数をこなしていくうちに上達しました。自分が設計した建築がかたちになって見えてくるのがうれしかったからなんでしょうね。つくっている途中はたいへんですが、模型ができるのがうれしくて作っていました。
本物の建物が建つのはもっとうれしいです。そのための建築模型!しっかりつくっていきましょう!!