ルイス・カーン建築作品6選|「光」と「素材」で空間の本質を語る巨匠

 建築を学ぶ学生にとって、質の良い建築に触れることは不可欠です。しかし、近代建築の三巨匠(ル・コルビュジェ、ミース、ライト)の作品は、教科書に載りすぎていて、どこか「お勉強」に感じてしまう人もいるかもしれません。

そこで今回は、私自身が心から敬愛する建築家、ルイス・カーンの作品を6つ厳選してご紹介します。

彼の建築は、「光」や「素材」といった本質的な要素を用いて、時代を超えた普遍的な空間を創り出します。この記事を読めば、建築が持つ根源的な魅力に触れ、新たな視点を得られるでしょう。

ルイス・カーン建築の3つの魅力

彼の建築を読み解く上で、特に重要な3つの要素をご紹介します。

  • 光と影の詩: 自然光を巧みに操り、空間に豊かな表情と奥行きを与えます。光は単なる明かりではなく、建築の構成要素そのものです。
  • 素材の真実: コンクリート、レンガ、木といった素材を、その性質が最も美しく見える方法で用います。素材は虚飾なく、その存在そのものが力強いメッセージを放っています。
  • 「仕える空間」と「仕えられる空間」: 階段や水回り、通路といった「仕える空間(サービス空間)」と、居間や寝室といった「仕えられる空間(主空間)」を明確に分離することで、空間に秩序と静けさをもたらします。

ルイス・カーン代表作品6選

フィッシャー邸|幾何学と自然が呼応する住まい

アメリカ、フィラデルフィアにあるこの住宅は、カーンの住まいに対する空間理念を直裁に表現しています。

リビングと個室、2つの箱が斜め45度に重なり合って配置されており、まるで抽象彫刻のようです。この傾きは、それぞれの部屋に最適な光や風景を取り込むために意図されたものです。2層吹き抜けのリビングにある安山岩の暖炉は、空間の柱としてどっしりと存在感を放っています。

エシェリック邸|読書のための光の空間

この住宅は、書店経営者のクライアントのために設計されました。外観は、窓が見えないシンメトリーな壁面が特徴で、彫刻のような印象を与えます。

2層吹き抜けのリビングには、壁一面の書棚と、空に開かれた横長の窓が設けられています。北側からの柔らかな光が白い天井に反射し、読書に最適な静かな空間をつくり出しています。

決して派手さのまったくないシンプルな住宅ですが、シンプルで明快な外観意匠が内部空間に展開されて豊かな居場所をつくりあげ、見れば見るほど奥深さを感じる建築作品です。

ソーク生物学研究所|海と空、コンクリートが織りなす神殿

太平洋を望む高台に建つこの研究施設は、ポリオ・ワクチンを開発したソーク博士の依頼で設計されました。

海と空が対峙する中央の広場は、余計なものが一切ない静寂に満ちた空間です。コンクリート打ち放しの建物と絶妙に組み合わせられたチーク材の開口部は、無機質な中に温かい表情をつくり出しています。メキシコの建築家ルイス・バラガンが「空へのファサード」と評したというエピソードも頷けます。

バングラデシュ国会議事堂|時を超越した「光の器」

古くからのイスラム建築を彷彿とさせるこの建物は、湖に浮かんでいるような圧倒的な存在感を放っています。

中心には、光が降り注ぐ16角形の議場があり、その周囲を円形や正方形の幾何学的な開口を持つ塔が取り囲んでいます。これらの巨大な幾何学的な開口部は、モダニズム建築でありながら、風土に根ざした彼の建築思想を雄弁に物語っています。

キンベル美術館|光が主役の空間

この美術館は、カーンの最高傑作と評されています。

サイクロイド曲線による天井のヴォールト形状が特徴的で、中央の細長い開口部から自然光を取り入れています。光は開口の下にある反射板でコントロールされ、柔らかな拡散光となって展示品を照らします。空間全体が、光という自然要素が時間とともに変化していく様子を体感できる、まるで光の器のようです。

イェール大学英国美術研究センター|遺作に込められた「居心地の良さ」

カーンの遺作であるこの美術館は、シンプルで静謐な表情をしています。

館内に入ると、5層分の吹き抜けが来館者を迎えます。日中は天窓からの自然光だけで作品を鑑賞でき、光に満たされた空間は、コンクリートと木の素材感がお互いを引き立て合っています。資料室の温かな木質空間は、公共的な空間の中に居心地の良い「人の居場所」を創り出そうとした、カーンの優しさが感じられます。

まとめ:ルイス・カーンが語りかける、建築の本質

ルイス・カーンの建築は、一見シンプルでありながら、その内部には哲学的な思考が凝縮されています。彼は「建築を設計する」という行為に真摯に向き合い、光、素材、空間といった建築の原初的な要素を通して、時代に流されない普遍的な美を追求しました。

彼の作品集を眺めるうちに、建築の持つ根源的な力に惹きつけられたというあなたの言葉は、まさに彼の建築の本質を捉えています。

↓その他、以下建築作品のご紹介もしております。ご興味あればぜひ!!

上部へスクロール