建築学科へのご入学、おめでとうございます。
新しい生活に胸を膨らませ、建築という未知の世界への期待に満ちていることでしょう。私もそうでした。しかし、この大学生活をどう過ごすかによって、その後の人生は大きく変わります。

今回は、一級建築士として実社会で働く私から、当時の建築学生であった自分に伝えたい、普遍的なアドバイスをお話しします。ここに書かれていることがすべてではありませんが、あなたの建築人生をより豊かにするためのヒントになれば幸いです。
1. 【心構え】建築熱は入学時がMAXでなくていい!徐々に育てよう
入学したてのときは、ほとんどの人が新しい学生生活に向けてやる気満々でしょう。はじめて学ぶ建築という分野においても、興味津々であるはずです。
ただし、入学したときがMAXの状態ではまずい。これは気をつけていただきたい点です。なぜなら、「これからの建築人生は長い!」のに、早々と建築熱が燃え尽きてしまう人もいるからです。最悪、せっかく入った大学を辞めてしまう人もいました。
もちろん、「自分でやりきって適性を見極めることができたんだから、それはそれで幸せなのでは?」という考え方もありますが、途中で辞めてしまうのはあまりにももったいないと思いませんか?徐々に成長し、卒業することこそが大切なのです。
そこで、モチベーションを維持しながら成長するための具体的なアドバイスをします。
受動的な勉強は卒業しよう:建築サークルとの付き合い方
どの建築学科にも、建築を勉強するためのサークルが1つか2つあるはずです。私も最初は興味がありましたが、結果的には入りませんでした。
単純にそのサークルの先輩の雰囲気が自分とは合わなかったのが大きな理由なのですが、今となって考えてみると、私は誰かといっしょにそういう勉強をすると、しなくともしたつもりになってしまう傾向があるんですよね。
学問とは、誰かに言われるからやるのではなく、自分で能動的に行うものだからこそ身に入っていくのだと、今になって強く思います。やる気は誰かに影響を受けるのはいいことですが、受動的に「誰かが何とかしてくれる」と期待してはいけません。
サークルに入るのが悪いとは言ってません! なんとなく入って、誰かに依存する姿勢がダメだということです。
建築雑誌より「本物」を見よう:空間を体感する重要性
建築を学ぶにあたって手っ取り早いのは、建築を見に行くことでしょう。興味をもったら積極的に見に行くことをおすすめします。いろいろ見ていくと自分の好みもわかってきますし、建築のどんな部分に自分は興味があるのか、ということが徐々にわかってくるはずです。

図書館には建築雑誌がびっしり置かれています。もちろんそこにあるものを見ることもいいとは思うのですが、私はやはり最初のうちは実物を多く見ることをおすすめします。雑誌は授業の課題などで参考にするときに読むようにする程度でいいでしょう。
なぜかというと、写真だと空間を体感できないからです。資料としていいのですが、自分のなかに入ってくる情報がやはり少なく、雑誌だと思い返しても何も自分のなかに残っていないことが多いのです。
建築本より先に「小説」を読め:本を選ぶセンスを養う
書店の理工書コーナーへ行ってみてください。どれを読めばいいかわかりませんってくらいたくさんの本が並んでいます。大学一年生の人たちには何から読めばいいかわからないですし、先輩や先生に紹介された本をとりあえず読んでみたとしても頭に入っていかないでしょう。
もしあなたが本を読むのに慣れていないのだったら、建築の本はいきなり読むことはおすすめしません。なぜなら、建築の本は読みにくい文章の本がほとんどだからです。本を比較的読む私であっても、建築に関する本は文章としてまずあまり面白くないものがほとんどです。(いいことは書いてはいるんですけどね、一応フォローですが笑)
ある程度本を選ぶセンスが備わっていないと、建築の本を読んでいくことが単なる苦行になってしまうのです。
ですので、まず本を読みなれていない人が読むのは小説なんかで慣らしてみてはいかがでしょうか。ストーリーのある文章を追うのはそんなに大変ではないと思います。いくつかの小説を読み進めていくと、自分の好きなジャンルや作家などがわかってきます。
そして、そこから派生して小説以外の本も読むようになってくると、本を読む、選ぶセンスが徐々に備わってきていることになります。書店で実際手にとって自分に合うか判断できるようになれば、そろそろ建築の本もある程度吟味できるセンスを身につけることができるかもしれません。
↓おすすめしたい建築小説に関する記事を書いています。まずはこちらからいかがでしょうか!
「どうしても建築の本から読みたいんだ!」という人は、まず安藤忠雄が書いた本を読んでみてください。彼の書く文章は比較的わかりやすいし、自分の経験に基づくものが多く書かれているので、読んでいてリアリティを感じます。彼の人生もドラマティックですからね。彼の書籍に関しては読んでみてもいいかもしれません。
↓どうしても建築の本から読みたい人のための本紹介記事を書いています!
2. 【自己分析】授業で「好き嫌い」「できるできない」を見つける
学校が始まると、一般教養科目とあわせて建築専門分野の授業も受けることになるでしょう。ここで真面目に授業を受けるというのも大事ではあるのですが、ある視点をもって臨むとより有意義になります。
それがタイトルに書かれている、「好き嫌い」「できるできない」を見つけるということです。

建築設計に進むのはわずか10%の現実
建築学科に入学したからといって、すべての人が建築の設計に携わるわけではありません。ちなみに、私の入った大学の建築学科には150人くらい学生がいましたが、建築設計の道に進んだ人は15人前後、つまり10%しかいません。でもこの数値に絶望しないでほしいと思います。
建築には設計以外にも仕事がたくさんあります。 構造だってあるし、施工もあるし、自治体で働いている人もいます。建築に関する仕事は設計以外にもたくさんあるのだということを知ってください。
「得意なこと」が将来の武器になる
「好き嫌い」「できるできない」を建築の授業で見つけておくと、いざ将来、自分にはどんな建築の仕事(または建築以外の仕事になるかもしれませんが)が好きなのか、また得意であるのか(おそらくこの「好き」よりも「得意でできてしまうこと」が今後大事になるかもしれません)を見極める材料になります。
ここで言っておきますが、**建築の設計ができなくてもいいんです。**建築の設計ができなくても建築に関わる仕事なんてたくさんありますし、設計の道に進めないのが負け組ではないのですよ。
私の大学で建築設計の道に進んだ10%の人たちが、必ずしも幸せに今後の人生を送っているわけではありません。勝ち組ではないのです。
自分で納得しながら将来の仕事を決めるということが何よりも大切なのです。
↓建築学科の学生の就職先を紹介した記事も書いていますのでまずは読んでみるのもおすすめです!
3. 【活用】建築学生の「特権」を最大限利用する
建築に限らず、学生という立場は、ある程度多めにみてもらえます。私を含めて社会人の人たちが学生さんらを多めに見て世話しようかなと思うのは、その大学というバックグラウンドがあるからです。そんな学生の立場を最大限活用して自分なりに動いてみることは、素晴らしいことであると思います。

人間関係の構築は「建築業界を生きていくうえでの財産」
大学時代の先生や先輩、後輩、同級生は、社会に出てから関わる可能性が高いです。仕事で大学関係者に会うということは、高校などと比べると多いです。ここで蓄積された人間関係やネットワークは、将来の自分を助けてくれることにもなります。
これは働いていて実感しますね!
もちろん、大学の建築学科という名前や、教授に頼んでの研究室としての活動、サークルでの活動などは、学生であるからこそできる特権です。使うか使わないかは自分次第ですが、やってみるのも一つありではあります。
長期休みを利用して「一人旅」に出てみよう
学生といえば、時間があまるほどあります。特に夏休みや春休みはびっくりするほどの時間が学生にはあります。
そのなかで是非やってほしいのが一人旅です。友達と一緒の旅も楽しいのはわかりますが、自分の部屋以外での一人の時間をとってみてください。誰も知らない人たちのなかでの一人は、あなたにとってとてもいい時間になると思います。自然と自分を向き合わざるを得ない機会となるはずです。

行き先はどこでもかまいません。国内であろうと、国外であろうと。都市や集落、自然のなかでも。ただ、まだ自分が行ったことのない場所のほうがいいですね。
4. 【未来予測】資格と未来の建築を意識する
一級建築士の資格は「在学中」に獲る計画を立てよう
建築学科に入ったのは一級建築士になるためだ!という方もいるでしょう。資格をとりたいと思っているなら、ざっくりでよいので、建築士という資格の流れを確認し、その取得のスケジュールをなんとなくイメージしておくことは、これからの時代大事になってくるのではないかと私は考えます。
なぜなら、建築士法の改正により、あなた方が卒業するころには卒業してすぐ一級建築士を受験できる時代となるからです。
↓まずは一級建築士資格の受験資格などをおさえておきましょう。まとめた記事はこちらです!
私からのアドバイスとして、 建築士となって働いていきたいと本気で考えているのであれば、大学院まで進学して、在学中に一級建築士を取得するという勉強計画をおすすめします。
「働きながらの受験勉強はとても大変ですよ~!」
おそらくたいていの人は受験のために高額な費用を払い、資格予備校に通うことになるでしょう。それは1年で終わりにしたいですよね。お金と時間をより大切に考えるのであれば、この計画はかなり良い方法の一つです。学生で試験勉強の習慣が少しでもあるうちに済ましておく問題です。
↓一級建築士受験に関するスケジュールの立て方や勉強方法に関する記事はこちらです!
建築の未来を少しずつ意識していこう
おそらく、今大学に進学される方々の建築の未来と、4年を経て卒業するころの建築の未来は違っています。それくらい、建築とそれらを取り巻く状況というのは、社会背景や政治などに大きく影響されるものなのです。
私の学生のときの例をあげてみましょう。私が大学に入ったときは、「リノベーション」という言葉は定着していませんでした。私自身も「改修より、さらっと何もない敷地に新しく建築するのがおもしろいんじゃん」と言っていましたが、卒業するにあたっては、「リノベーションの技術も設計者としてあったほうがいいよなあ」なんて考えるようになりました。
CAD技術や3Dプリンター、AIの出現によって、これから建築技術者に与える影響は必至です。常に未来の仕事や技術を意識して学ぶことが、後悔しない卒業へと繋がります。
まとめ:後悔しないために「行動」せよ
さて、長々と語ってしまいました。これでも短くしようと努力はしたのです。
何も考えず、適当に学生生活を送って、あとで後悔するのもアリなのかもしれません。それはそれで無駄な時間だったなと、次に生かすという考えもあります。そのとき自分が納得して次のステップに進めるならいいのかもしれません。
でもそれでいいのかな? たいていはよくないんですよね。
時間には限りがあるのだなということを働いてから常に思います。私はその思いをお伝えしたかったわけです。

私が今お話していることは「成功するためのことではありません」。**「できるだけ失敗しないようにするためのこと」**です。
自分が成功するためには自分でプラスアルファ何かを考えて、無駄になってもとりあえずやってみるということも大事なことは、今回のブログのまとめとして言っておきます。
積極的に動いてみることは無駄になることもあるけど、そうでない部分も同時にあるんです!新しいことをやるってそういうことでもあるので!!