【建築学生必読】建築小説おすすめ18選

以前の建築やデザインに関する本のご紹介をしましたが、私個人としましては、専門書関係だけでなく、小説も読んで欲しいなという気持ちがあります。今回は建築学生におすすめ小説をいくつかご紹介します!

日本の小説

五重塔

建築家安藤忠雄が推薦していたこともあり、読んでみました。五重塔の建立に身を捧げる宮大工の話です。登場人物の一人である職人気質な大工の十兵衛は、人間関係に不器用なところがたまに傷ですが、愚直に自分の腕を信じ、職人道を突き進む姿が読んでいて胸が熱くなります。

<読みやすさ★★☆☆☆>

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美しき町

こちらは建築好きであった佐藤春夫による作品です。ストーリーは主人公である青年画家が資産家となった知人からある「美しい町」をつくるという計画の協力を依頼されることからはじまります。自らの資産を投じて東京のどこか隔離された場所に家を100軒建てて町とし、特定の条件を満たす人に無償で住んでもらうという理想郷プロジェクトは主人公と同様に読者を魅了させます。

<読みやすさ★★★☆☆>

※絶版

巨大な家に住む家族を描いた小説です。家には各階にいくつかの世帯が住んでいて、なぜか下階の住民は上階へは行くことができません。家のまわりは広い海に囲まれ、最上階には長老が住んでいます。集合住宅のようでありながら、また集落のようでもある設定となっています。家という限定した閉鎖的な空間が遠い未来の話みたいでありながら昔話みたいな、より多義的な想像力をかきたてます。

<読みやすさ★★★☆☆>
※筒井康隆、新潮文庫「家ヨッパ谷への降下―自選ファンタジー傑作集」に掲載

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火山のふもとで

建築設計事務所の新人所員である主人公とそのボスである建築家の交流を描いた小説です。リアルな建築と設計に関する美しい文章が小説の世界観をかたちづくっています。建築家の言葉もまた素敵ですし、小説舞台のひとつとなっている軽井沢の風景とそこに住む人たちのとの交流、山荘で流れる音楽とスタッフで食す美味しそうな料理などもこの小説の魅力です。

<読みやすさ★★★★★>

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濹東綺譚(ぼくとうきたん)

この小説は昭和初期、墨田区向島玉の井を舞台にした、小説家と私娼の数か月の逢瀬を町の情景や季節の移ろいと共に描いたお話です。小説は自伝的なドキュメンタリー、地理、歴史的な情景や主人公が書く小説を同時進行させ、最後は長めのあとがきという多面的な構成となっています。これらが当時の東京の姿を立体的に浮かび上がらせ、今は失われたそれらの様々な側面が複雑な彩りで伝わってきました。

<読みやすさ★★★★☆>

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金沢

こちらの小説は、東京の実業家が金沢に家を買い、年に何度か滞在して町を歩き周り、料理を堪能し、酒を酌み交わしながら対話するだけのお話です。金沢という街の中に時間や空間や常識を超えたおおらかでユーモアのある幻想的な世界観、そして著者独特の息の長い文体が登場人物たちの酒の酩酊を思わし、読者にまで伝わってくるような読書体験が魅力的です。

<読みやすさ★★☆☆☆>

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猫の客

こちらは昭和の時代が終わる頃、昔ながらの日本家屋の離れに借り住まいする作者夫婦と隣家の猫の交流を描いた私小説的な作品です。人と猫との出会いや別れ、昭和から平成に流れていく時代背景が街や庭の四季の移ろい、猫の日常の些細なしぐさとともに静謐な筆致で細やかに描かれています。

<読みやすさ★★★★☆>

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青木淳選 建築文学傑作選

こちらの本は建築家青木淳がセレクションした小説集です。本で紹介される短編小説の数々は彼自身が建築的だなというふうに感じた作品、表題のごとく建築文学が掲載されています。建築文学とはどういうことを彼が言っているのかというのが最後に評論としてまとめていますのでごらんになってください。

<読みやすさ?????>→作品による

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海外の小説

アウステルリッツ

建築史研究者アウステルリッツと私との出会いと交流が描かれている小説です。アウステルリッツが訪れた古い駅舎や裁判所、監獄など様々な建築物をもとに繰り広げられるエピソードの数々は、そこにたたずむ沈黙を拾い上げ、彼自身の過去を支えます。小説なのか、散文なのか、フィクションなのか、そうでないのか、その境界のあいまいさが魅力的な作品です。

<読みやすさ★★★☆☆>

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ヴェネツィア 水の迷宮の夢

この本は詩人である著者自身のヴェネツィアを訪れた滞在記なのですが、小説とも読むことができる書物になっています。17年もの間、決まって冬の時期に訪れていた著者は、都市の心象風景を水、そして光をモチーフに描いています。多彩な隠喩や著者の皮肉めいた断片的なエピソードが都市に今も巡らされている水路のように展開されます。

<読みやすさ★★★★★>

※絶版

ガラスの街

この小説はニューヨークの街を舞台に、主人公である探偵が依頼された尋ね人を探し、迷い歩くというものです。ストーリーで彼はマンハッタンの街区を歩きまわりながら自分の思考や感情に問いかけはじめ、徐々に大都市に取り残されてゆきます。都市の雑踏を歩くような文体が孤独、喪失感を研ぎ澄まし、そこに生きることへの漠然とした不安感や匿名性を表現しているかのようです。

<読みやすさ★★★★☆>

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バベルの図書館

この小説は無限に本が存在する図書館が舞台となっています。図書館はあらゆる言語の本が収蔵された無限大の空間として読者の前に立ちはだかります。その世界観はもはやSF小説といってもよいでしょう。架空の図書館を宇宙にみたて、言葉によって構築されたその無限性は、読者、そして著者までもを覆う現代でいうインターネット世界の未来を予見しているかのようです。

<読みやすさ★★★☆☆>

※伝奇集(ボルヘス)に掲載

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万里の長城

カフカが中国を題材に書いた物語です。小説は現在観光地として有名なあの万里の長城について、技術者が工事過程の視点から自身の考えを綴っています。それは建設方法についての考察や築城論から始まり、万里の長城自体の存在意義、そして皇帝や民衆批評につながってゆきます。非常に骨太なものとなっていて、実体として存在する建築を評することでひとつの小説を生み出しています。

<読みやすさ★★★☆☆>

※カフカ短篇集に掲載

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地図と領土

主人公が現代アーティストの物語です。この小説のなかで作り出す芸術作品の表現描写がすばらしく、実際に作品を鑑賞している気持ちになりました。そしてこの小説での醍醐味は、登場人物を通して繰り広げられる作者の偏愛にも近い社会に対する考察です。ウィリアム・モリスやル・コルビュジェに対する批判などが触れられている部分は読み応え抜群です!

<読みやすさ★★★★☆>

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黄色い雨

こちらは一人の男の死を彼が生活していた家や村の消滅にかさねて描かれている小説です。語り手である男の回想や死に行く過程がそこには書かれていて、死者の視点となって描かれている設定が、孤独による生死、昼夜の境界をあいまいに表現しています。死がそこかしこに漂う退廃的な状況にもかかわらず、詩人である著者の透明感溢れる文章によって美しさを感じます。

<読みやすさ★★★★☆>

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南部高速道路

この作品は、高速道路渋滞に巻き込まれた人々の不条理を描いたお話です。高速道路上という車の連なりからなる避難生活のような集落的関係性。その閉鎖された世界で生きる人々の様子がなぜか滑稽で、現代社会を暗示しているようにも感じます。

<読みやすさ★★★★☆>

※悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集に掲載

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粗い石 ル・トロネ修道院工事監督の日記

修道士でありながら建築家の魂を持った人物の、僧院建築の工事監督としての日々を綴った日記という形の小説です。正直とても読みづらいです。この読みずらさが、この日記の中の苦労を物語っているようにも感じられたという見方もできました。教会と職人の間に立ちながら、時には修道士、時には現場監督として振る舞い、その葛藤の中を力強く生き抜く主人公の姿は現在だからこそ仰ぐべき建築家像です。

<読みやすさ☆☆☆☆☆>

※絶版

おまけ:絵本

猫の建築家

詩的な言葉で語られる猫の建築家としての哲学。古いまちをながめらがら、まちを想う猫、移り変わる季節。もしかしたら猫は猫なりに自分のいる世界を私たち以上に大切におもっているとともに、その変わっていく景色や未来を暗示しているのかもしれないなと想いました。イラストも非常に素敵です!

<読みやすさ★★★★☆>

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まとめ:小説を読んで他者を想像しよう!

専門書とは異なり、小説は直接的に役に立つというしろものではありません。しかしながら、私たちは一般の様々なクライアントがあっての仕事をしていて、様々な人と会話をしなくてはいけません。他者を見て想像するという点で小説は効果的な存在であると私は考えます。上質な小説は意味に達する無限の情報がこめられています。そこに身をおいて体験することは、専門書では得られないあなただけの価値観を生み出し、設計の仕事に大きな影響を与えるでしょう!

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