一級建築士として日々の激務の中で、「この専門性と責任に見合う年収なのか?」と誰もが一度は考えたことがあるでしょう。資格を取得しても給与が大きく変わらないというジレンマ、そして勤務先が違うだけで年収が数百万円も違うという現実があります。私たちは高度な技術を持っていますが、その市場価値は**「どこで、どう使うか」**によって決まります。
この記事では、建築士の「市場価値」を客観的なデータから分析し、勤務先別の年収ランキングを公開します。さらに、令和2年建築士法改正で拡大された**「実務経験の対象範囲」**が示す、年収を劇的に向上させるための具体的なキャリア戦略を解説します。

この記事では、建築士の「市場価値」を客観的なデータから分析し、勤務先別の年収ランキングを公開します。あなたの年収を劇的に向上させるための具体的なキャリア戦略を解説します。
一級建築士の年収を分ける「勤務先の収益構造」
一級建築士の年収を決定づける最大の要因は、資格そのものではなく**「勤務先の収益構造」**です。同じ資格を持つ建築士でも、勤務先のビジネスモデルによって報酬水準が大きく異なります。
会社勤務先別一級建築士年収ランキング
ここからは、個人経営者を除いた、会社組織に属する一級建築士の年収水準を、企業の利益率や規模から推定したランキング形式でご紹介します。年収が高くなる要因は、建物を企画・販売・管理する(企画・マネジメント)業務の利益率の高さに強く依存します。
第10位:中小ハウスメーカー/設計施工会社
- 平均年収(目安):500万円~700万円
- 年収が高くなる理由: 地域密着型で、給与水準は低い傾向にありますが、幅広い業務経験が得られます。
第9位:公務員(特定行政庁など)
- 平均年収(目安):550万円~750万円
- 年収が高くなる理由: 安定性は最高ですが、昇給は公務員規定による年功序列が基本です。
第8位:中堅ゼネコン/サブコン
- 平均年収(目安):600万円~800万円
- 年収が高くなる理由: 大手に比べると水準は劣りますが、安定した収入が得られます。地域や専門性(サブコン)で変動します。
第7位:大手ハウスメーカー
- 平均年収(目安):600万円~850万円
- 年収が高くなる理由: 安定した給与体系です。設計職でも販売数に応じたインセンティブで収入増の可能性があります。
第6位:構造・設備設計事務所(専門)
- 平均年収(目安):650万円~900万円
- 年収が高くなる理由: 技術の専門性が高く、その価値が評価に繋がりやすいです。
第5位:組織設計事務所(大手)
- 平均年収(目安):700万円~900万円
- 年収が高くなる理由: 意匠設計・監理のプロフェッショナル集団です。収入アップにはマネジメント層への昇格が必須となります。
第4位:中堅デベロッパー
- 平均年収(目安):750万円~1,000万円
- 年収が高くなる理由: 大手に準ずる利益率で、企画や開発職として高い報酬を得ます。
第3位:外資系・大手コンサルティングファーム
- 平均年収(目安):750万円~1,200万円
- 年収が高くなる理由: 実力主義の世界です。PM/CM(プロジェクト管理)やデューデリジェンスなど高付加価値な業務を提供します。
第2位:スーパーゼネコン(大手総合建設業)
- 平均年収(目安):850万円~1,200万円
- 年収が高くなる理由: 巨大プロジェクトと安定経営が基盤です。大規模案件の収益が社員に還元されます。
第1位:大手デベロッパー
- 平均年収(目安):900万円~1,500万円
- 年収が高くなる理由: 利益率が極めて高い企画・販売業が主体です。建築士はマネジメント層として高評価を得ます。
年収を分ける「利益率の壁」
このランキングで上位を占める企業は、**「設計・施工」ではなく、「企画・販売・管理」**によって収益を上げています。
- 設計・施工の仕事: コストと工数に利益が縛られます。
- 企画・販売の仕事: 市場価格とニーズに利益が依存し、収益の伸びしろが大きいため、社員への給与還元率も高くなります。
年収を大きく上げたいのであれば、「設計・施工」のプロから**「企画・マネジメント」のプロ**へと職務内容をシフトすることが、最も有効なキャリア戦略となります。
年収アップを実現する「キャリア転換」の戦略
一級建築士の資格は、高度な専門性と信用力の証明です。この価値を最大限に活かし、高年収のポジションへ進むための具体的な戦略を解説します。

戦略 1:専門知識を「マネジメントスキル」に変換する
高年収のポジションは、全てプロジェクトを統括するマネジメント職です。
- 技術知識の強み: あなたの持つ技術知識は、マネジメント職に就いた際に「現実的な判断を下せる」という大きな強みになります。
- 役割の転換: 設計者から設計統括責任者(プリンシパル)へ、または現場スペシャリストから所長や部門長としてプロジェクト全体のリスク管理と予算執行を担う立場への転換を目指しましょう。
戦略 2:「建築士の新しい実務」を軸に市場価値を高める
令和2年の建築士法改正では、「実務経験の対象範囲が拡大」されました。これは、単にルールが変わっただけでなく、国が「今後、建築士が活躍すべき新しいフィールド」を示した、建築士の生き残り戦略とも言えます。
従来の「設計・監理」以外の分野に、資格と専門知識を活かすことで、市場価値を飛躍的に高めることが可能です。
【法改正で実務経験にカウントされるようになった新分野】
| 新しく加わった実務の分野 | 具体的な仕事内容と市場価値 | 年収アップへの貢献 |
| ① 建築物に関する調査・評価 | 既存建物の耐震性・劣化診断、建物調査報告書の作成、資産価値評価(インスペクションなど)。 | 新築からストック活用へのシフトに伴い、建物の寿命を延ばすコンサルティング能力として高評価。 |
| ② 建築工事の施工技術上の管理 | 施工図の作成、現場での技術指導、施工計画の管理、BIM/CIM活用など。 | 現場の生産性向上に直結する技術力として、ゼネコンや専門工事業者で重要性が増している。 |
| ③ 建築・都市計画行政 | 建築確認の審査、開発許可の審査、都市計画の策定など、行政機関での専門業務。 | 複雑な法制度を理解し、まちづくりや制度の根幹を担うマネジメント層として高年収が期待できる。 |
| ④ 建築教育・研究・開発 | 建築士を養成する学校での教育、新しい建築技術の研究や特許開発など。 | 知識の継承・進化に関わる上流工程の仕事として、業界全体への影響力が評価される。 |
この改正は、「設計図を描く」仕事がAIや技術に代替されるかもしれない未来に向けて、設計以外の部分で**「総合プロデューサー」**として活躍する道を示しています。年収アップを目指すなら、これらの高付加価値な分野へのキャリアチェンジを検討すべきです。
戦略 3:「建築+α」の隣接スキルで高年収ポジションへ
年収ランキング上位の企業(デベロッパー、コンサルなど)へ転職し、高年収のポジションに就くためには、建築士の資格に加え、隣接分野のスキルが決定打となります。
- 企画・金融知識: デベロッパーやコンサルタントを目指すなら、プロジェクトの収益性を判断する**宅地建物取引士(宅建)の知識や、不動産鑑定士などの知識は不可欠です。これらを習得することで、「調査・評価」**のキャリア(戦略2-①)がさらに強化されます。
- グローバルな視点: 外資系企業や海外プロジェクトに関わるなら、ビジネスレベルの英語力や海外法規の知識が、年収を大きく押し上げます。
戦略 4:独立を視野に入れた「顧客獲得スキル」の確立
ランキングから除外した**「独立した経営者」**は、成功すれば最も高い年収を得ます。組織内でのキャリアに限界を感じた場合、独立は有力な選択肢です。
- 会社員時代の準備: 組織にいる間に、「設計以外のスキル」、具体的には顧客との信頼関係構築、マーケティング、財務管理を意識的に習得してください。これが独立後の収入安定に直結します。
- 経営者としての年収: スタッフの平均年収は組織設計事務所より低い傾向にありますが、経営者自身は努力と実績次第で年収の上限がなくなります。
結び:資格の価値を最大限に活かす
一級建築士の資格は、安定したキャリアの基盤であり、高い専門性を証明するパスポートです。

その真価は、高収益なポジションで**「企画・マネジメント能力」**や、**法改正で示された「新しい実務領域の専門性」**を発揮することで初めて発揮されます。
あなたの年収は、過去の努力ではなく、未来のキャリア戦略によって決まります。この年収ランキングと新しいキャリアの道筋を参考に、ご自身の市場価値を正確に把握し、次のステップへと踏み出してください。
【参考データ資料(注釈)】
本記事の年収データは、主に以下の公的資料および公開情報を参考に、業界傾向を考慮して推定しています。
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(職業別平均賃金の基礎データ)
- 上場企業の「有価証拠報告書」(大手デベロッパー、スーパーゼネコンの平均給与)
- 国税庁「民間給与実態統計調査」(建設業・不動産業の平均給与水準)
【法改正関連情報】
上記情報は、国土交通省の「新しい建築士制度の概要」(令和2年建築士法改正)に基づき作成しています。最新かつ正確な情報は、必ず公式の情報をご確認ください。