建築設計の道に進む皆さんにとって、大学で学ぶ専門知識を実務で活かせるスキルへと昇華させるのは、大きな課題ですよね。この建築設計の勉強法ガイドでは、設計スキルを飛躍的に向上させるための具体的な考え方と、現場で通用する設計アプローチを解説します。自身の経験に基づいた実践的な設計プロセスと、実務で使える具体的なポイントを、以下の2つの段階に分けて解説します。

建築学生向け:設計プロセスの基本と表現力向上
設計の腕が上達する最初の一歩は、感覚と論理のバランスを持ってアイデアを形にすることです。これは、すべての建築設計の勉強法の土台となります。
アイデア発想:シーンとストーリーを設計する
設計課題に取り組む際は、まず建築の中での**「シーン」と「ストーリー」**をイメージすることから始めましょう。
- シーンの具体化: 「住宅の玄関からリビングへ導かれると、窓の外のウッドデッキでバーベキューをしている家族の姿が見える」など、個々人で異なる具体的なシーンを思い描きます。
- ストーリーの構築: そのシーンがあなたの設計の「やりたいこと」であり、そこから空間や間取りへと発展させる設計の核となります。
アイデアの集積とプランニングへの移行
頭の中で浮かんだ様々なイメージが消えないうちに、必ず形にして残しておきましょう。

- 初期アイデアの記録: スケッチや簡単な模型など、形式を問わずたくさん残しておきましょう。これらは設計アイデアの**「最初の結晶」**であり、プラン作成時に立ち戻って確認する重要な資料となるはずです。
- プランニングの開始: 描いた素晴らしいイメージをどう現実の図面に落とし込むかがプランニングです。平面図(プランニング)を描き、実現可能性を確認していきましょう。
プランニングのとっかかりと基本要素
プランニングのとっかかりは多彩ですが、設計プロセスの初期段階として以下の基本要素から入ると明確です。
- 配置計画: 敷地に対する建物の配置。
- 動線計画: 建物への入り口から各部屋への移動ルート。
- ゾーニング: パブリック(公共的)な空間とプライベートな空間の明確な分離。
プレゼンテーションを意識した設計
設計を進める際、常に**提案を第三者に伝える「プレゼンテーション」**を意識しましょう。
- 見せ場の特定: 建築の一番の見せ場(例:住宅におけるリビング)はどこかを考え、それをメインの空間として構成します。
- 要素の統合: その空間の特徴(例:明るさ、開放感)を構成する要素(例:大きな窓、ウッドデッキ)を明確にし、設計に取り入れます。
- 夢を見せる表現: パースや模型を通じて、クライアントが絵を見て、プランを見て、説明を聞いて「うんうんと頷きながら完成を夢見れる」ような状況をつくれるよう意識しましょう。
スタディ模型による確認(必修)
平面図、断面図、立面図ができたら、必ずスタディ模型をつくり、案の成立性を確認しましょう。
- プロセスの確認: プロは図面で成立を確認できますが、まだ勉強中の段階では必ず立体化して、うまくいっていない点がないかを見つけ出すことが大切です。
- スキルアップ: 模型はつくればつくるほど模型のスキルが向上し、建築を多角的な視点から見ることができる訓練にもなります。
表現スキル:図面、イメージ、言葉
せっかくのアイデアを正確に伝えるには、高い表現スキルが必要です。
図面について
- 線のメリハリ: 平面図や断面図では、切られている線と見えがかりの線の太さ細さにメリハリをつけましょう。立面図は建物の顔となるため、線にメリハリがあると存在感が際立ちます。
- 手描きでの注意点: 部屋名などの表記の美しさだけでも、図面の質に大きく影響します。
イメージ表現について
① 建築模型(最も推奨)
- 立体としての利点: 第三者が設計者と同じように空間を確認できる最大の利点があります。実務でも模型の効果は絶大です。
- 写真活用: 模型写真として撮影することで、CGとは異なるリアリティのあるイメージを提案できます。
- 努力の反映: 絵やCGと比べ、模型は図面を忠実に立ち上げる作業が中心で、努力や慣れが成果に反映されやすいため、数をこなせば必ず上達します。
↓建築模型材料や道具についてを紹介している記事も書いています!
② パース(手描き・CG)
- 手描きパース: 絵が得意なら、第三者の心をつかむ強力な武器になります。
- CGパース: 実務においては、かけた労力ほどクライアントの反応がよくないことが多いため、使い方を吟味する必要があります。
説明文章・口頭での伝達
- 文章のポイント: 図面で表現できていることを簡潔に、シンプルな言葉で補足します。思いを込めるのは大切ですが、シンプルでないと相手には伝わりません。
- 口頭でのポイント: 文章以上に、わかりやすい言葉でシンプルに提案を伝えることを心がけましょう。そこにあなたの思いを込めることで、提案は必ず相手に伝わります。
提案は「ワンドローイング・ワンメッセージ」
設計提案において、図面、イメージ、言葉のすべてで伝えたいことは一つに絞りましょう。
- 混乱を防ぐ: 「結局何が言いたいのか?」と聞かれるのは、提案の軸が複数あり混乱している証拠です。
- シンプルさの追求: 筋の通ったシンプルなメッセージでないと、他人である相手の頭にはすっと入ってきません。
新人設計者向け:実務での設計アプローチと心構え
次は、実際の設計業務から私が学んだ、設計アプローチにおけるクライアントワークと敷地条件への重要なポイントを解説します。
クライアントに対する姿勢:聞き取りと受容

提案と同じくらい、クライアントへの「聞き取り」が大切です。
- 真の要望の把握: クライアントが口頭で述べたことだけでなく、どんな夢を持ち、何に興味があるのかといった人間性を引き出すことが、提案の重要なポイントに潜んでいます。
- 「すべてを受け入れる」姿勢: クライアントの要望が物理的に不可能だと思えても、一旦はすべて受け入れてみましょう。無理難題の中にこそ、提案のヒントやアイデアに昇華する可能性が隠されていることがあります。
↓クライアントに対するヒアリングについて掘り下げた記事はこちらです!
アイデアでの解決とカタチの武器
クライアントの要望に対しては、言葉でなく必ず「アイデアを形にして」回答することを心がけてください。
- 形での回答: 図面、模型、パースなど、絵にすることでクライアントは何かしら反応を示します。
- 設計者の役割: 私たちの仕事は、曖昧な言葉の集積を整理し、図面や空間で表現することです。この**「形にする武器」**を駆使してクライアントと向き合えば、心を開いてくれるでしょう。
敷地の理解:周辺から中心まで
建物はほとんどの場合、地面のある土地に存在し続けます。設計者は敷地を見ようとし、耳を傾けようとすべきです。
- 多角的な情報収集: 周辺環境、近隣住民、風の向き、日常的に聞こえる音など、多様な情報を気にすることで、設計のヒントが隠されていることに気づきます。
- 制限を個性にする: クライアントの要望と敷地の特徴から生まれる**「制限」こそが、提案のヒントであり個性になる**ことを理解しましょう。その解釈こそが、あなたの個性となります。
寸法とスケール感の習得
建物には適切な寸法があり、それを理解して図面を描くことは設計者としての礼儀です。
- 適切な寸法: リビングの大きさ、キッチンに必要な広さなど、適切な寸法には必ず理由があります。これをおろそかにすると、窮屈であったり間延びした建物が生まれてしまいます。
- CADの弊害への対処: CADはノンスケールで作業が進むため、寸法感が欠如しがちです。初期段階での手描き設計や建築模型での確認が、この弊害を解消するために不可欠です。
良い建物の必要条件は「チーム」
設計は決して、あなた一人の力だけで完結するものではありません。
- クライアントとのチーム: 発注者であるクライアントありきで仕事は成立します。彼らとどう良いチームを組んで良い提案を生み出すかが、設計行為の根幹です。
- 周囲との連携: 設計能力だけでなく、人の意見を素直に受け入れ、積極的に質問し、現場の職人と信頼関係を築けるなど、「人」として成長し周囲と連携できる力が求められます。
↓仕事で活かせる建築設計のプレゼンに関する記事はこちらです!
まとめ:設計は「体全体」を使う行為
ここで述べたことは、建築設計の勉強法におけるごく一部の要素にすぎません。施主が多種多様であるように、求められる建物も多様であり、その奥深さが設計の魅力です。
日々の仕事や日常のささいな部分に何か発見を見出しながら、体全体を使って設計という行為を続けていきましょう。