大学の設計課題は、技術や知識だけでなく、あなたが設計という仕事そのものを好きかどうかを知る大切な機会です。もし設計に喜びを感じるなら、どうすればもっと上達できるかを模索し、もし合わないと感じたとしても、建築は設計がすべてではありません。設計のアプローチを知ることは、あなたの今後の人生に必ず役立ちます。

建築設計をやってみたくて建築学科に進学した人がほとんどでしょう。この貴重な学生時代の設計課題に、積極的に取り組み、将来の資産となる経験を積みましょう。
設計課題を通して誰かのために設計する楽しさを知ろう!
メディアで活躍する建築家たちは皆、個性的な作風を持っています。しかし、学生最初の設計課題から「自分の作風」を無理に決めつけようとしないでください。作風とは、たくさんの設計経験を積み、自分の好きな素材やプランニングのパターンに気づいたときに、後からついてくるものです。
個性は真似から生まれる
まずは設計課題が住宅であれば、そこに住む人を具体的に想像し、その誰かのために設計するという基本的な行為そのものを楽しんでください。
誰かのためは自分のためより楽: 自分のためと考えると迷いがちですが、誰かを想定すれば、その人の要望を整理することに集中でき、設計が進めやすくなります。
自邸設計の経験: 実際に自分の家を設計する際も、自分のためではなく、家族(妻や子ども)の喜びを想像しながら描いた方がうまくいきました。
真似の効用: 好きな建築家の作品や設計図を参考にすることは全く問題ありません。しかし、敷地も住む人も異なります。真似から始めたとしても、その「異なる部分」を自分で調整しようとするときに、自然と独自の個性が宿り始めます。
エスキスは「対話の訓練」と心得よ
設計課題エスキス(設計の途中段階で教官などから指摘をもらう授業)は、作業が進んでいないと足が遠のきがちですが、この機会こそが非常に重要です。

自分本位の設計からの脱却
一人で考えていると、設計がどうしても自分本位になってしまい、「誰かのために設計している」という視点を見失いがちです。
客観的な意見の重要性: エスキスで誰かから客観的な意見や指摘をもらうことで、自分の思考から一度離れ、**「ハッと気づかされる」**瞬間があります。
施主との対話の体感: 私たち建築士の仕事は、お金を払って建物を建てようとする施主との対話によって成り立ちます。エスキスは、施主(教官など)との対話を通して、設計は自分一人だけのものではないということを体感する貴重な場です。
他者のお金で設計する責任: 「他人のお金で建築を設計させていただいている」というプロとしての感覚を、学生のうちから養っておくべきです。
講評会は最高の学習機会でありプレゼンの訓練
設計課題を提出し終わった後の開放感から、講評会を欠席してしまう学生がいますが、これは非常にもったいない行為です。

優秀作品から学ぶ「客観視」
講評会に参加し、設計課題優秀作品を見る、そしてその学生の発表を聞くことは、非常に勉強になります。
修正点の発見: できる人がどのように設計し、どう説明しているかをリアルタイムで見ることで、自分の作品のどこが足りなかったかを客観的に考える絶好の機会になります。時間が経ってから見直すよりも、その場で気づく方が時間的なロスがありません。
自己修正の訓練: 自分の修正すべき部分を見つめ直す作業は、自分一人ではなかなかできないため、他者の作品と比較できる講評会を最大限に活用すべきです。
意図を伝える「プレゼン」の訓練
講評会で作品が選ばれた学生にとっては、自分の設計内容や思いを、多くの人に聞いてもらえる絶好の機会です。
対話の延長: 設計はクライアントがいて成立する仕事であり、設計の意図や思いを伝えるプレゼンの訓練は不可欠です。
図面と口頭の説明の整合性: プレゼンでは「図面で表現した内容を伝える」ことが大事です。図面に描いていないこと以上のことをしゃべりすぎても意味がありません。図面で表現したことと口頭での説明に整合性を持たせる訓練を積んでください。
採点後の課題は「資産」となるよう即座に磨け
採点され返却された設計課題を、そのままクローゼットの奥にしまい込んだり、捨てたりしてはいけません。あなたの作品群は、将来の自分を売り込むための**「ポートフォリオ」**となるものです。
早期ブラッシュアップのメリット
返却された課題は、以下の理由から、早いうちにブラッシュアップしておく必要があります。
就職活動の資料: 就職面接などで自分をアピールする最重要資料となります。
時間と記憶の効率化: 面接直前に慌てて作品をまとめるのは非常に大変です。記憶があるうちに作業を進めることで、思い出す時間のロスがなくなり、効率的に作品集を仕上げることができます。
設計課題の真の目的を知る
課題作品は、必ずしも最高の評価を得る必要はありません。最終目的は、クライアントに満足してもらえる建築設計を提案し、それを実現してあげることです。
設計演習の目的は、このような提案機会をフルに活用して、鍛錬を積むことにあります。評価の良し悪しに一喜一憂するのではなく、提案のプロセスから学びを得てください。
結論:設計は「才能」ではなく「トレーニング」である
建築設計にはセンスや才能が必須だと考える人がいますが、私はそうは思いません。
継続の力: 設計課題で最初はうまくいっていた学生が、途中で努力を怠り、着実に努力を続けた学生に追い越されてしまうという例は少なくありません。設計はこつこつと積み重ねるトレーニングであり、日々の過ごし方で上達していくものです。
人間力こそが仕事になる: 最終的に設計の仕事を受注できる人は、単に「設計ができる人」ではありません。美容師がカット技術だけでなく、会話や気遣いで指名されるように、設計者も人間力が重要になります。
**クライアントの要望を整理し、どうすれば喜んでくれるのかを考え、自分の得意技を駆使して満足してもらう。**その積み重ねが、あなたの設計の個性と信用をつくっていくのです。設計課題という素晴らしい機会を、将来の自分への投資として大切に過ごしてください。