
近年、私たちが住むこの日本列島は、東日本大震災以来、熊本地震、北海道地震など、記憶に新しい大きな自然災害に何度も見舞われてきました。**「日本は地震が多い国だ」**という現実を、私たちは痛いほど知っています。
私自身、これらの災害を目の当たりにし、そして実際に被災地に足を運んだ経験から、**「自分ができることは何だろうか?」**という問いを常に抱え続けてきました。建築の提案活動をしてきた一方で、国家資格を持つ建築士として、もっと直接的に、命と生活の安全に貢献できないか、そう考えたのです。
その答えとして、私は以下の2つの重要な講習を受講し、修了することを決意しました。
- 被災建築物応急危険度判定講習
- 震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針講習

これは、万が一の際に「いつでも力になれる」という準備をしておくためです。今回は、これらの役割をご紹介するとともに、すべての建築士、そしてこれから建築士になろうとしている皆さんに、「こんなに大切な講習もあるんだ」という気づきをお届けしたいと思います。
1. 建築士の使命:なぜ私たちは災害に備えるべきか?
私たちが扱うのは、単なる箱としての建物ではありません。そこには、人々の生活、財産、そして命が含まれています。通常の業務とは異なる内容、そして専門知識が必要ですが、地震の多い日本において、**「起こってはほしくないけれど、万が一起きてしまったとき」**のために準備しておくことは、建築士の職能における最も重要な社会的責任の一つだと、私は講習を通じて確信しました。
震災発生後における建築物の復旧に関する流れ
震災が発生したとき、被災地の建築物は時間経過に応じて、以下の3段階のプロセスを経て復旧を行います。この流れを理解し、建築士としてどこで力を発揮できるかを知ることが、私たちの使命です。
- A:応急危険度判定(緊急時の安全性確認)
- B:被災度区分判定(復旧の要否判断)
- C:復旧計画、復旧工事(本格的な再建)
このうち、建築士が講習を修了することで専門的な力になれるのは、混乱期にあるAとBの段階です。この初期段階の迅速かつ正確な判定こそが、被災地域の早期回復のために最も重要な位置づけとなってくるのです。
2. 【解説】被災建築物の復旧プロセスと2つの判定
建築士の皆さんが実際に災害現場でどのような役割を担うのか、応急危険度判定と被災度区分判定それぞれの具体的な中身を見ていきましょう。
2-1. 応急危険度判定とは?(緊急時の安全確保)
震災の後、第1段階として災害がおきた直後に行うのが、余震等に関する応急的な安全性調査としての「応急危険度判定」です。
これは被災建築物やその周辺において余震による二次災害を防止するため、その構造躯体、落下危険物、転倒危険物等について調査を行い、建築物の使用に対する制限の要否を専門家として判定します。
これらについては大きな地震後にニュースなどのメディアで目にした方もいらっしゃるかと思いますが、調査済み(緑色)、要注意(黄色)、危険(赤色)のステッカーを建物に表示していきます。要注意(黄色)、危険(赤色)においては応急処置を行う場合もありますね。

2-2. 被災度区分判定とは?(復旧の方向性の決定)
そして次、第2段階として、やや混乱の落ちついた時期あたりに「被災度区分判定」を行っていきます。
これは被災建築物の構造躯体に関する被災度を正確に把握し、その状況報告に基づき、継続的に使用するための復旧の要否を判定するためのものです。
ここで、これから建築物がどのような方向性で復旧されるかがわかるわけなのです。
上記の段階を経て、安定時期に入ったところでようやく第3段階として復旧計画や復旧工事が行われます。以上、簡単に書きつらねてみましたが、実際においては、状況をみながら、柔軟に対応するようにしていくことが考えられます。
3. 専門家として注意:「罹災証明」との違い
ここで誤解がないように注意点としてお伝えしておきますが、これらの判定は、**「罹災(りさい)証明書」**を発行するための判定ではありません。
罹災(りさい)証明書とは、各自治体が、被害に遭われた人(罹災者)の申請によって、家屋の被害状況調査を行い、その状況に応じて全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊などを認定し証明するものです。
この証明書は罹災者が支援を受けるために必要となります(固定資産税の減免、支援金の支給、仮設住宅への入居優遇など)。これを発行するための調査は、あくまでも自治体が主体となって行うものであり、応急危険度判定とは目的と管轄が異なることを理解しておきましょう。
4. 講習受講で建築士として得られる3つの「大切なもの」
通常の業務では学べない知識を得て、万が一に備えることは、以下の3つの点であなたの建築士としての知識と職能に厚みを与えます。
4-1. 建築士としての揺るぎない社会的使命
単に資格を持っているだけでなく、「その知識と技術をどう生かして社会に付与していくか」という、建築士の職能を最も高いレベルで発揮できます。災害時に地域と人に貢献できることは、資格保持者としての最大の存在意義となります。
4-2. 構造判断の専門知識のアップデート
講習では、震災による建物の損傷を見極めるための構造判断の知識を集中的に学びます。これは、普段の設計業務における耐震性や安全性への意識を根本から引き上げ、設計品質の向上に直結します。
4-3. 多様な案件への対応力とネットワーク
講習の修了は、あなたが災害対応の知識を持つ専門家であることを証明します。復旧・復興プロジェクトは通常の設計業務とは異なるルートで発生します。この準備をしておくことで、将来的に災害復旧コンサルティングなど、資格の新たな活用法や仕事のネットワークを得る機会につながります。
まとめ:あなたの職能を社会に活かすために
地震の多い日本において、災害が何も起こらないことに越したことはありません。
ただ、起きてしまったときを想定して自分自身ができることを準備することが、そのできごとに対する教訓だと私は信じています。もし自分のまち、またはどこか日本のまちが地震で被災したときに、自分の職能においてどんなことができるのかを考えた答えのひとつが、これらの講習でした。
ただ建築士という資格をもっているだけでなく、それをどう生かして社会に付与していくかというのを、やはり常に考えていくべきなんです!
私たちがもちうる職能が扱うものは建物かもしれませんが、そこに含まれている人の生活や命があってこそなのです。
なので、今建築士の資格をもっている人やこれから建築士の資格をとろうとしている人たちは、**「こんなに大切な役割と講習があるんだ」**ということを心に留め、いつでも力になれる準備をしておいてほしいと、心からのメッセージをブログにこめて発信させていただきました。