一級建築士が説く!建築スケッチがアイデアを飛躍させる本質と具体的な思考法

クライアントの要望や夢を聞いた後、あるいは設計課題の説明を受けた直後。敷地や課題に触れ、頭の中でアイデアが閃く瞬間は、設計者にとって最も楽しい時間の一つです。ふとした瞬間に浮かんだ大切なイメージやアイデアを、どのように自分の血肉とし、設計に活かしていくか。

建築スケッチイメージ

この記事では、私自身の経験に基づき、建築学生や若手設計者に向けて、**「なぜスケッチをするのか」「どうすればアイデアが設計として成熟するのか」**という方法論をお伝えします。


建築アイデアの源泉:まずは「何でもメモ」してみよう

アイデアのメモを取る習慣がない方や、何をメモすればいいかわからない方へ、まずは最初の一歩を踏み出しましょう。

躊躇せず、数をこなすことが重要

最初は何でもいいから紙に書き留めてみてください。絵が下手でも全く問題ありません。中には絵があまり得意ではない建築家もいます。重要なのは、**「自分がわかれば良い」**ということです。そのメモが、最終的に図面や模型といった形を生み出すヒントになれば十分です。

きれいに描くことよりも、躊躇せずどんどん思いついたことをアウトプットする**「数のトレーニング」が重要です。数をこなすうちに、「これは良い」「これはそうではない」という自分なりの取捨選択(センス)**が養われてきます。

スケッチ

ビジュアルに「思考」の言葉を添えて残す

ただのメモから次の段階に進むため、次に意識してほしいのは、ビジュアルイメージ(絵)でメモを残すということです。

建築のアイデアは、絵というビジュアル的なものがあって初めて具体的な形になります。言葉だけでは特に空間のイメージは残りにくいものです。

  • 思いついたことは、言葉だけでなく、何らかのビジュアルイメージとして必ずスケッチしておきましょう。
  • そして、後でそのイメージを見返したとき、「それがどういう思考のプロセスで生まれたのか」という言葉を添える努力をしてください。

こうすることで、そのイメージが単なる落書きで終わらず、自分の**「設計の引き出し」**に残すべき価値のあるアイデアなのか、そうでないのかが明確になります。


アイデアを「引き出し」に残すための整理法

たくさんスケッチを重ねて情報が蓄積されていくと、中には「今回は採用されなかったけど、今後またどこかで使えそう」なメモも出てきます。アイデアを定着させ、将来の設計に活かすための整理法をご紹介します。

スケッチのためのメモを2つに分けてみよう

スケッチノート

私はメモを性質で2つに分けています。

  1. 日々思いついたことを書き留めるノート(小型):常に携帯し、閃きを逃さないための「一次情報」のメモ。
  2. 残しておきたいメモを厳選したノート(通常サイズ):一次情報から厳選したメモを、後で見てもわかりやすい形で整理し直して残しておくための「思考のアーカイブ」。

この作業は、アイデアの取捨選択の良いトレーニングになりますし、改めてそれが本当に良いアイデアであったのかどうかを客観的に振り返る良い機会にもなります。

描いたメモは読み返さないのが理想

ここまでアイデアをメモにとることをおすすめしてきましたが、**実際は描いたメモを読み返すことはあまりありません。**しかし、これは今まで考えたアイデアが無意味であるということではありません。これまでノートにしてきたことで、自分の頭と手先にそれらが「定着」し、自分の技術や思考の一部になったためです。

思ったことを言葉や絵にすることというのは、すぐにうまくなるわけではありません。私も多くのノートを積み重ねてこの状況に達しました。

ただし、これまで描いてきたメモを改めて見返してみると、**自分の考えがどう発展し、上達しているかを確認する「自己分析の資料」**としては非常に面白いものとして残ります。


設計を深めるスケッチ:「関係性」の具体化

設計指導の段階で、上司や建築学科の教官から「もっとスケッチしろ!」という言葉をかけられた記憶がある方は多いでしょう。この**「スケッチ」が持つ真の意味**は、前の章で述べたアイデアメモのスケッチとは異なります。

私も先生や上司から直接、この真意を教えてもらうことはありませんでしたが(おそらく本人もうまく言語化できなかったのでしょう)、このスケッチの真の意味は、**「関係性をもっと具体化しろ!」**という意味です。

建築学生の悩みイメージ

「スケッチしろ!」=曖昧な設計の深掘り

この言葉は、**「空間同士の大事な設計部分が曖昧になっているので、もっと設計して具体的な空間を提案してみてよ」**という、メッセージが込められています。

【具体例】

例えば、あなたが住宅を設計している途中で、教官に模型や図面を見せました。

あなたの設計意図は「子供室がリビング上部の吹き抜け越しに見える、雰囲気を感じられる空間にしたい」というものだったとします。

しかし、模型や図面上の表現が、リビングと子供室がただ**「四角い開口でつながっているだけ」**の状態だった場合、教官は以下のような疑問を感じます。

  • 開口はどんな形状で、どんな大きさか?
  • その開口は、子供室のどういうことをするスペース(例:机やベッド)とつながっているのか?
  • リビングから子供室への視線は、そこで何を目的にしているのか?

このように、空間同士の「関係性」が曖昧なままで、設計として具体化され、図面や模型で表現されていないとき、彼らは**「もっとスケッチしろ!」**と言うのです。

この「スケッチ」は、まだ設計しきれていない「関係性」を問い直し、具体的な解答を導き出せという意味合いを持っています。この「関係性の具体化」こそが、設計を深めるために欠かせない、もう一つのスケッチの重要な役割です。


まとめ:メモとスケッチを「習慣化」し思考をクリアにする

今回ご紹介したアイデアのメモの取り方、整理法、そして「関係性の具体化」のためのスケッチは、すべてあなたの**「思考を可視化し、整理する」**ための手段です。

  1. アイデア出しのスケッチ: 閃きを逃さず、数のトレーニングを通じて自分の「引き出し」を増やす。
  2. 整理と取捨選択: 重要なアイデアをアーカイブし、自己分析を通じて自分の思考の発展を確認する。
  3. 関係性のスケッチ: 設計意図を深く掘り下げ、曖昧な空間同士の「関係性」を具体化する。

この一連のプロセスを通じて、自分の考えを他者に伝えられるレベルまで磨き上げることで、メモに対する取り組みもまた新しく更新されていきます。

ものづくりやアイデアを仕事とする建築家にとって、この**「思考の可視化」を習慣化していくこと**が、頭の中をクリアにし、設計能力を向上させるための最も重要な土台となるでしょう。

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