北欧建築やデザインを愛する皆さん、こんにちは。
今回は、モダン建築の巨匠、エリック・グンナール・アスプルンドをご紹介します。彼は55歳という若さで亡くなるまでに、一度見たら忘れられない、感動的な作品を生み出しました。
この記事では、建築家である私の視点から、彼の代表作であるストックホルム市立図書館と**世界遺産「森の墓地」**の魅力を深掘りしていきます。
ストックホルム市立図書館

この建築は、数々の雑誌で紹介されるアスプルンドの代表作です。
大通りの交差点に面して建つこの建物は、オレンジ色の円形と、それを取り囲むキューブ形という、シンプルな幾何学図形の組み合わせで構成されています。そのユニークなシルエットには、不思議と愛着がわいてきます。
圧倒的な円形ホールの魅力
入口の細い階段を上がると、目の前に壮大な本のパノラマが広がります。吹き抜けのエントランスホールは、360度本に囲まれた圧巻の空間です。
空間の構成: 巨大な円柱の内部は、本がぐるりと並んだ開架式の大閲覧室になっています。周囲を諸室が取り囲む、シンプルで明快な配置です。
光とテクスチャー: 天井は、乳白色の壁の凹凸が施され、自然光と照明がホールに柔らかく降り注ぎます。ただ座っているだけで、まるで教会にいるかのような心地よい穏やかさに包まれます。
利用者に寄り添うデザイン
この美しい円形ホールだけでなく、図書館の随所にはアスプルンドの利用者への温かい配慮が感じられます。
特に心惹かれるのは、児童書スペースです。ゆったり座れる大きなソファやおもちゃが置かれ、まるで大きな子供部屋のよう。その一角には、アスプルンドが子供たちのために作った、絵本の読み聞かせや人形劇ができる部屋があります。
建物の美しさだけでなく、利用者のことを深く考えた公共サービスの充実ぶりは、まさにスウェーデンというお国柄を象徴しているようです。
森の墓地(スコーグスシュルコゴーデン)

**「森の墓地(スコーグスシュルコゴーデン)」**は、20世紀以降の建築作品として、最初に世界遺産にも登録された傑作です。
アスプルンドは、敷地となる丘陵地と森を最大限に生かし、建築が自然と一体化するデザインを提案しました。「人間は死ぬと森に還る」というスウェーデンの死生観が、この広大なランドスケープに表現されています。アスプルンド自身も、自らが設計したこの墓地に眠っています。
広大なランドスケープに点在する建築
入口を抜けると、なだらかな丘の上に花崗岩でできた十字架が見えます。これは信仰の象徴ではなく、「生命循環」を意味しています。
七井戸の小道: 「瞑想の丘」から「復活の礼拝堂」までを結ぶ、およそ888mの一本道です。死者を悼み、悲しみを癒すための大切な道のりとしてデザインされています。
森の礼拝堂: 林を抜けた奥にある、三角屋根の小さな礼拝堂です。
松林のパビリオン: 4つのピラミッドで構成された建物で、現在はビジターセンターとして利用されています。
まとめ:自然と共生する建築
森の墓地に点在する約10万もの墓は、墓石の存在が森の一部として表現されています。自然と深く関わりながら人が静かに眠る空間は、**「自然との共生」**というテーマが強く感じられ、訪れる人に感動を与えます。
アスプルンドの作品は、美しいだけでなく、人や社会、そして自然との関係を深く考え抜かれたものばかりです。