「一級建築士の試験勉強は、計画がすべて」。
これは誰もが知る**“あたりまえなこと”です。しかし、この計画が意外と実行できない**。なぜかというと、受験者のほとんどが仕事や学校、研究などと同時並行で、自分の人生の時間を切り売りして勉強しなければならないからです。
モチベーションの糸が切れてしまう。試験日にピークを合わせられない。
こうした大人ならではの難しさを想定して戦略を立てるのが、合格への唯一の道です。
今回は、私自身の合格経験と挫折の教訓をもとに、来年度の試験に向けて仕事と両立できる、挫折しないための学習ロードマップを具体的なスケジュールと共にご紹介します。

第一関門:学科試験を突破する「ピーク逆算」スケジュール
学科試験は、暗記と反応勝負の第一関門です。合格に向けて、1年間という長すぎる期間でモチベーションを浪費しないための戦略を立てましょう。
1. 勉強期間は「1年間」ではなく「3ヶ月集中」にピークを合わせる
学科試験の結果が振るわなかった場合、「また1年間頑張ろう」と考える人は多いでしょう。もちろんその意識は大事ですが、私はこの「1年間勉強する」という考え方に疑問を呈します。
1-1. モチベーションは維持できないという大前提
あなたは、1年間も最高の集中力で勉強を続けることができるでしょうか?仮に無理に続けたとしても、どこかでプツリと糸が切れてしまう可能性が高いです。
建築士の学科試験は、結局は暗記です。そして、暗記した知識はいずれ抜けてしまうもの。この特性を考えると、試験前3ヶ月間にみっちり勉強に集中できる環境を自分自身で調整することが、最も効率的であり、大人として賢い勉強方法だと考えます。
1-2. 学習期間の理想的な設定
- 試験日の3ヶ月前:知識の定着と暗記の密度をマックスに持っていく期間。
- 年明け〜3ヶ月前:全範囲の網羅と、問題慣れを行う期間。
- 年内:準備と基礎固めの期間。
この**「3ヶ月集中」**を目標に設定することで、モチベーションを維持できる現実的な期間が生まれ、ゴールから逆算した計画が立てやすくなります。
2. 年内は「時間確保の段取り」に徹する
上記をふまえ、本格的なスタートの前にどれだけ時間が取れるかという「足場固め」が最も重要です。これは年が明ける前に必ず調整しておきましょう。
年内(10月〜12月)にやること | 目的 |
職場での宣言 | 残業時間や休日出勤の調整について、事前に上司や同僚に協力をお願いする。 |
家族の協力体制 | 家族に試験への挑戦を伝え、勉強時間の確保と家事分担について協力体制を整える。 |
予備校・テキスト選定 | 学習計画の土台となる教材を決め、年内に一度ざっくりと目を通しておく。 |
予備校に通う場合はガイダンスで必ず言われることですが、この環境調整なくして、合格はありえません。この段取りこそが、年明けからの本格的な勉強の密度を決定します。
3. 学習計画は「俯瞰」から「詳細」へ段階的に設定する
学習計画は最初から細かく行わないことをお勧めします。仕事の忙しさは時期によって変動するからです。
3-1. 最初の計画は「ざっくり」と
- 1か月単位:まずは1か月単位で、**「どの時期までにどの範囲を網羅するか」**というのを俯瞰的に見据えましょう。仕事の繁忙期を予想し、勉強時間を減らさざるを得ない期間を把握しておくことが大切です。
3-2. 実践は「週単位」で
- 年明け以降:年が明けてから、週単位で何をやるかを具体的に決めます。
- 実行:決めたことを実行する。
- チェック:週末に、スケジュールがうまくこなせたかを確認し、翌週の計画を修正する。
このルーティーンを行うことで、現実と計画のズレを最小限にし、モチベーションの低下を防ぎます。
4. 模試を活用し、常に自分の立ち位置を客観視する

予備校が行う模試は、学校に通う人、そうでない人、どちらも必ず活用してほしい部分です。
活用法: 模試の時期(たいてい3~4回程度)を中心に、**「この模試までに、この範囲の学習を網羅する」**という学習網羅の目標を設定しましょう。模試は、単に点数を測るだけでなく、学習計画のペースメーカーとして機能させることが重要です。
模試の役割: 多くの受験者が受けるため、自分自身の立ち位置が客観的に把握できます。
第二関門:製図試験を乗り越える「受験回数別」戦略
学科試験をパスした後の製図試験の勉強計画は、受験者の心の状況と勢いによって大きく戦略が変わってきます。

1. 初受験者向けの「勢い」短期集中計画
1-1. 勢いは最大の推進力
学科試験をパスしたばかりの初受験者は、勢いを活かした短期集中型が最も有効です。この時期は、プライドや自信によってモチベーションが最も高く、作図やエスキスを一心不乱にこなす推進力があります。
なんだかんだで、この**「勢い」こそが製図試験の勉強において最も質に影響してきます。もし自分に勢いがあるのなら、それを信じて一心不乱に作図とエスキスを多くこなして詰め込む**のが、試験を勝ち抜くシンプルな戦略です。私もこれに賭けて製図試験をパスすることができました。
1-2. 短期集中に必要な条件
- 予備校通いは必須: 短期決戦で合格レベルに到達するため、プロの指導と採点を受ける予備校通いが必須になります。
2. 再受験者・計画遅延者向けの「じっくり」長期計画
勢いにうまく乗れなかった新規受験者や、2回目、3回目の再受験者は、長期計画で着実に基礎力を積み上げていきましょう。
2-1. 勢いに乗れなかった新規受験者の戦略
- 製図やエスキスの学習に遅れが出た人、学科試験の合格基準点ギリギリだった人は、心理的な不安から製図試験へのモチベーションが上がりにくい傾向があります。
- この場合、**法改正の恩恵(製図免除)**を活用し、今年はスルーして来年の試験に賭けるというのも一つの賢い戦略です。
年内にやっておくべきこと(次年度へ賭ける場合):
- 製図スピードの確立: 確実に2時間30分で描き終えることができるように練習を徹底する。
- エスキスの流れをインプット: 簡単な課題を中心に、課題発表まで2週間に1回は解くトレーニングを続け、エスキスの感覚を鈍らせないようにする。
2-2. 再度受験に臨む人の戦略
2回目以降の受験者は、「あと1回あるから」という余裕から、ついつい勉強が近づかないと製図板に向かえない人が多いはずです。これこそが不合格の連鎖です。
弱点補強: 過去問を解く中で、製図スピードが遅ければ作図練習を、エスキスが弱ければエスキスだけ再度チャレンジするという学習を重点的に行いましょう。新規受験と同じルーティーンでは、勢いがない分、結果はさらに下になることが多いです。
過去問活用: 課題発表までは、過去問を1か月に一回、6時間30分を確保して解くというルーティーンを確立しましょう。
まとめ:学習管理に時間とお金を投資する
独学での合格も不可能ではありませんが、やはり**「学習をある程度誰かに管理してもらう」**ことが、この難関試験を乗り越える最も確実な近道だと私は考えます。
頑張ってお金をかけて予備校に通い、時間を確保して管理してもらうのが、今の時代において一級建築士という資格取得の近道であるという現状は変わりません。
結局、合格への戦略とは?
- お金をとるのか(独学で費用を抑えるのか)
- 時間をとるのか(予備校で時間を短縮し、合格を確実にするのか)
それは受験をされる方の現在の環境によって選択肢が分かれてきます。しかし、**記念受験は時間とモチベーションの無駄でしかありません。**ある程度勉強をして臨むのとそうでないのとでは、試験への緊張感がまったく異なります。
あなたの限られた貴重な時間とエネルギーをどこに投資するのか、そこをしっかり決めて受験に臨んでほしいと思います。