独立建築士の副業18選:収入を安定させる専門的な働き方

建築設計事務所などを運営する独立系建築士にとって、クライアントからの設計報酬だけで事務所を維持し、生活するのは容易なことではありません。設計の受注は波があるため、特に独立当初は「軌道に乗るまでが大変」という厳しい現実があります。

独立建築士の苦労イメージ

しかし、建築士の資格と専門知識は、本業以外にも幅広い分野で活かせます。今回は、私や仲間たちが実践してきた、建築設計を軸に収入源を補い、活動領域を広げるための18種類の副業をご紹介します。


Contents
  1. Ⅰ. 専門知識を教える「教育・登壇」分野
  2. Ⅱ. 既存建築・専門技術を活かす「調査・診断」分野
  3. Ⅲ. 資格と知識を活かす「審査・事務」分野
  4. Ⅳ. スキルを横展開する「制作・実務」分野
  5. Ⅴ. 【実体験報告】クラウドソーシングを活用した建築系副業
  6. 感想とまとめ:建築はウェブのみで完結するのか?
  7. まとめ:王道にこだわらず、変化を恐れない

Ⅰ. 専門知識を教える「教育・登壇」分野

登壇・講義イメージ

1. 大学・専門学校の講師

教育機関で非常勤講師として授業を担当する方法です。報酬はそれほど多くはありませんが、確実な収入源の一つとなります。

  • キャリアの可能性: 常勤講師のポストは少ないですが、設計実務と並行して行うことで、事務所に拘束されることなく教育に関われます。
  • 人材発掘: 授業を通じて優秀な学生と出会い、将来の設計事務所スタッフを採用する機会にも繋がります。設計人材は宝です。募集があったり、声がかかった時には、準備の大変さを乗り越えてぜひチャレンジしてみる価値があります。

2. 建築士資格予備校の講師

建築士試験に合格したばかりの人などに声がかかることが多く、特に製図講師は人材が不足しているという話もあります。

  • 実務経験が強み: 設計事務所の運営経験がそのまま授業に活かせます。
  • 新たな採用機会: 今後、学生から一級建築士試験を受験できるように法改正が予定されており、優秀な合格者を将来的に事務所スタッフとして雇える可能性も生まれます。

3. 建築士関係講習の講師・登壇

建築士の定期講習、管理建築士講習など、資格維持に関わる講師として登壇する仕事です。建築士会に所属していると依頼されることがありますが、ボランティアに近い報酬となることが多いです。

4. 講演活動

実績や経験が豊富な建築士は、企業や団体から講演会に呼ばれることがあります。学校での学生向け講演は報酬が少ない傾向にありますが、企業からの依頼は比較的高額な報酬を得られる可能性があります。


Ⅱ. 既存建築・専門技術を活かす「調査・診断」分野

調査イメージ

5. 耐震診断

耐震偽装問題以降、公共施設を中心に需要が顕著に増加しました。特に建築構造の専門技術は今後も安定した仕事が見込めます。

  • 木造住宅の課題: 最近は木造の空き家が増えており、木造建築物の耐震診断技術も仕事になり得ます。しかし、診断後に費用面から補強工事に至らないクライアントが多いのが現状です。
  • ビジネスモデルの開拓: 国を挙げての開拓が必要との意見もありますが、既存の空き家問題を解決する新しいビジネスモデルを確立した人が勝つ可能性がある分野です。

6. 既存住宅状況調査(インスペクション)

宅地建物取引業法の改正により、講習を受けた建築士が既存住宅の売買時に劣化状況を調査し、報告することが求められるようになりました。

  • 今後の需要: 空き家増加の事情から、今後ますます重要性が高まると考えられます。
  • 耐震診断より軽作業: 比較的軽めな作業であり、この調査をきっかけとしたリノベーションなどのビジネス展開の可能性も秘めています。

7. ホームインスペクション(住宅診断)

既存住宅状況調査技術者の資格ができる前から存在する仕事で、やること自体は既存住宅状況調査とほとんど同じです。住宅の欠陥部分を見つける「住宅の健康診断」として捉えられています。建築士でなくとも可能ですが、専門的観点からのアドバイスが求められます。

8. 定期報告の調査や報告

特定建築物の設備等には定期報告が義務付けられており、管理者からの依頼を受けて調査・報告書作成を行います。

  • 報酬の効率: 調査や報告書類の準備はありますが、拘束される時間の割には良い報酬が得られることがあります。

Ⅲ. 資格と知識を活かす「審査・事務」分野

検査機関等イメージ

9. 保険検査に関する仕事

住宅の建設時に義務付けられる瑕疵担保保険の検査員など、保険評価の対象として建物を検査する仕事です。内容は建築確認申請の検査に近いものがあります。

10. 構造適合判定員

建築確認申請において一定の構造条件を満たす建築物に必要な構造適合判定を行う仕事です。構造一級建築士の資格が必要であり、実務や知識にたけた専門家は今後も重宝されます。

11. 震災建築物の被災度区分判定および復旧に関する仕事

東日本大震災や熊本地震などを受け、自治体からの要請があった際に被災建築物の調査を行うための講習を受けた建築士の仕事です。報酬だけでなく、災害時に建築士として何ができるかという責任感や人生経験の勉強としてチャレンジする価値があります。

↓震災建築物の被災度区分判定および復旧に関する資格をもってます!関連記事を書いています!!

12. 審査員

コンペやプロポーザルなどの審査員です。実績豊富な建築家や大学教授が占めることが多いですが、報酬自体はネームバリューの割に多くはないと言われています。

13. 建築関連訴訟の調停員

建築に関する訴訟が増える中、建築士会などに属していると調停員として依頼されることがあります。これはボランティア的な仕事ですが、建築の仕事をする中で遭遇するかもしれない機会であり、人生経験の勉強として受けてみる価値はあります。


Ⅳ. スキルを横展開する「制作・実務」分野

現場実務イメージ

14. 施工業務(現場監督)

施工の経験がある人であれば、設計者としてだけでなく施工者として仕事を受けることも可能です。

  • 安定した受注: 設計業務に比べて、ユーザーや設計事務所からの仕事、自社物件のメンテナンス、改修工事など、仕事を掘り下げると広がりを持ちやすい分野であり、安定した受注に繋がる傾向があります。

15. 執筆活動

建築誌やウェブなどに専門家としての視点から記事を寄稿する仕事です。一般の人が書くよりも原稿料がやや高くなることがありますが、お小遣い程度の金額になることが多いです。文章を書くのが得意であれば、自身の宣伝にもなるためチャレンジしてみる価値があります。

16. その他デザイン(グラフィック・ウェブ・CG)

建築設計においてグラフィックデザインやウェブデザイン、CG作成技術は必須の時代です。その技術を自分の事務所だけでなく、広く外部に提供する企業活動も可能です。

17. 図面作成や申請代行業務(下請け)

大手の建築設計事務所の実施図面作成やゼネコンの施工図、ハウスメーカーの確認申請図面の作成代行など、下請けの仕事です。

  • 葛藤と現実: 安定した収入が得られる一方で、「この仕事をするために独立したわけではない」という葛藤も生まれます。しかし、やりたいことを実現するため、生活のために割り切って行う必要があります。

18. アドバイザー・コンサルティング

クライアントに対し、設計業務とは別にコンサルティング料として報酬を得る業務です。設計報酬に含める形で行うことが多いですが、建築や周辺のまちづくりなど、コンサルティングのみを独立して行うことも可能です。


Ⅴ. 【実体験報告】クラウドソーシングを活用した建築系副業

近年、副業やフリーランスの働き方が広がる中で、ウェブを通じて個人や企業が仕事を発注・受注するプラットフォームであるクラウドソーシングの活用も増えています。本業の仕事が不安定になった際に、**「とにかくお金を稼ぎたい」**という切実な思いから、私自身も約2年間、クラウドソーシングサイトを利用し、建築に関係する仕事を受注してみました。

クラウドソーシングサイト登録イメージ

ここでは、建築の仕事がクラウドソーシングでどの程度あるのか、そして実際にどれくらい稼げたのか、具体的なサイトと体験談を交えてリアルにご報告します。

建築の仕事が見つかったクラウドソーシングサイト3選

私が実際に利用し、仕事を受注したクラウドソーシングサイトと、その所感を正直にお伝えします。

1. ランサーズ(Lancers)

国内最大手のクラウドソーシングサービスです。デザイン、ライティング、Web制作などがメインで、建築分野に特化した案件は多くありません。

  • 建築案件の傾向: 住宅デザインに関する企画業務など、非常に限定的でした。
  • 受注実績: 住宅デザインに関する企画業務を1件のみ受注。
  • 教訓: ロゴデザインやキャッチコピーなどのコンペ形式にも挑戦しましたが、応募件数が毎回100件近くあり、10件ほど応募して一度も採用されませんでした。

⇒ランサーズのHPはこちら!

2. クラウドワークス(CrowdWorks)

こちらもクラウドソーシング大手サイトの一つで、非常に幅広いジャンルの仕事があります。ランサーズに比べ、建築関連の案件は若干多かったです。

  • 建築案件の傾向: 住宅プランの企画、集合住宅のボリュームチェック、建築に関する記事作成など。
  • 受注実績: 複数回応募し、案件を獲得。
  • 教訓: ランサーズと同様、ロゴやキャッチコピーのコンペは採用が厳しすぎると判断し、建築の専門知識が活かせる案件に絞って応募するようにしました。

⇒クラウドワークスのHPはこちら!

3. スタジオアンビルト(Studio Unbuilt)

このサイトは、建築に関する仕事に特化したクラウドソーシングサービスです。

  • 建築案件の傾向: 間取りの提案、間取りコンペ、実施設計図面の作成など、専門性が高い案件が中心です。
  • 受注実績: 3つのサイトの中で最も多く応募し、受注も受けました。仕事内容は主にごく初期の間取り提案やコンペです。(補足:実施設計図面の作成案件もありましたが、単価が安すぎたため、条件が合わず受注には至りませんでした。)
  • 特徴とメリット: サイトを管理している人たちと連絡が取りやすく、距離感が近く感じられました。建築に関する専門的なやりとりも可能で、案件によっては電話での打ち合わせもありました。単価の合う案件に絞ったため、このサービスをメインに活用しました。

⇒スタジオアンビルドのHPはこちら!

建築系クラウドソーシングで稼いだリアルな金額と確率

約2年間(空いた時間のみ)の活動で、私がクラウドソーシングを通して副業として稼いだざっくりとした合計金額は約30万円でした。

サイト名稼いだ金額の割合(約2年間)
スタジオアンビルト20万円
クラウドワークス7万円
ランサーズ3万円
合計約30万円

項目リアルなデータ
応募の競争率一件の案件に10〜20人ほどの応募
私の受注確率応募した件数に対し、1〜2割程度
仮に継続した場合の可能性年間50〜100万円程度は建築設計の企画に関する副業だけで稼げる可能性あり
  • 課題: たくさんエントリーしておかないと受ける確率が落ちますが、いざ受注を受けた時に本業の仕事が重なっていると、納期管理が大変になるという課題がありました。

経験者が語るクラウドソーシングのメリットとデメリット

このシステムを通じて、建築士としての仕事の未来を考える良い機会になりました。

クラウドソーシング活用のメリット

  • 手軽なお小遣い稼ぎ: 契約や作業に大きな責任が伴わないため、時間が空いた時のお小遣い稼ぎや、仕事がない時のつなぎに最適です。
  • 報酬の確定が早い: 成果に対して報酬がすぐに確定されるため、設計事務所時代にあったら副業として大いに活用していたと思います。
  • 仕事の割り切り: 提案内容をクライアントに譲渡し、その後の責任はクライアントに移行します。建築士として一から最後まで関わるわけではないので、後々仕事に引っ張られることがないのが大きなメリットです。
  • 資格不問の仕事: 企画デザイン程度の仕事が多く、建築士の資格を持っていなくても仕事ができる点も、働きやすさに繋がります。

クラウドソーシング活用のデメリット

  • 報酬単価の低さ: 建築士の専門知識と時間を使う仕事内容に対して、報酬は正直低く、本業として設計を受ける報酬とは程遠い部分があります。
  • やりがい・責任の欠如: 提案内容はクライアントに譲渡されるため、実際に建物が建つという実感がないことは、建築士としては少し物足りなく、虚しい気持ちになることがあります。
  • 実績の蓄積が困難: やった仕事が自分の設計事務所の実績として正式に蓄積されにくいという点もデメリットです。

感想とまとめ:建築はウェブのみで完結するのか?

私の経験から、クラウドソーシングは**建築に特化した「スタジオアンビルト」**が、管理者からのフォローもあり、最も取り組みやすかったです。

この仕組みは、**「空いた時間を埋める建築バイト」**という感覚で、お金をもらうと割り切って仕事ができる人には非常に有効な手段です。

一方で、建築は**「実体としてあるもの」**です。設計試験も手描きなどアナログな要素が多く、他の分野に比べてウェブ内のみで完結するサービスの発展は遅れているかもしれません。

しかし、これからまだ30年、40年と建築士としての未来がある私にとっては、このような新しい仕事の受け方・稼ぎ方をこれからも模索していきたいと考えています。


まとめ:王道にこだわらず、変化を恐れない

今回ご紹介したように、建築士には本業以外にも多くの仕事があります。大学で設計を学び、設計事務所を運営する者にとって、「建築の設計だけで生活する」のが王道かもしれません。

しかし、時代や社会が建築士に求めていることは常に変化しています。その**「王道」だけにこだわりを持つのではなく、何でもできることはやってみる**という姿勢が大切です。

つまらない仕事や、嫌になる仕事もあるかもしれません。それでも、やりたいこととできること、そして時代による求められ方の変化を意識して動き続ければ、自分に合った、自分にしかできない建築の仕事がきっと見つかります。

建築という軸をぶらさずに、どのような仕事があるのかをこれからも考え、発信していくことが重要です。

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